深々と浸透する「従北」勢力-「月刊朝鮮」より

80年代学生運動で胚胎

 統合進歩党の李石基議員の「内乱陰謀」事件は韓国の政界、思想界を震撼させており、いまだ余震は収まりそうもない。いやむしろ、いま明らかにされつつある内容からして、今後、ますます激しさを増しそうな勢いなのである。

 このまま追及が進めば、李議員のように国会にまで進出した者のほかに、司法や教育、労働、企業、メディア、農村などに浸透しているかつての「運動圏」出身者たち、いわゆる「従北勢力」が暴かれていく可能性もある。

 金日成研究の大家・故李命英成均館大学教授は、「韓国には10万人の北のスパイがいる」と指摘していたが、その言葉が現実味を帯びている。すなわち、北朝鮮の思想的影響を受け、自覚無自覚を問わず、その工作指揮を直接間接に受けている元活動家と「従北勢力」の数はそれくらいに達するだろうからだ。

 韓国の学生運動は、独裁政権に反対するところから始まった。南北分断という現状から、「自主」「祖国統一」がスローガンとして受け入れられやすく、「民族解放」(NL)組織に多くの学生が吸収されていった。

 そこに入り込んだのが、「主体思想派」(主思派)である。彼らは実際に北朝鮮に渡り、工作員訓練を受け、指令を受け取って、南に戻り、ある者は労働運動活動家となり、ある者は司法界に入り-と、一般社会に浸透して「時の来るのを待って」いた。

 今回の李石基事件では、秘密会合で「決定的時期が差し迫っている」として、具体的に破壊工作目標を定めて準備してたことが警察等の捜査で明らかになっているが、長年「埋伏」されていた工作員が一斉に踊り出た可能性もあったという話だ。

 いくら、分断国家だとはいえ、ここまで民主化が進み、経済的に繁栄した韓国で、このような工作が進行していたとは俄かには信じがたいが、月刊朝鮮(10月号)で「主思派観察記」を書いている元活動家の洪奇杓ジャル企画代表の話は、それが現実だったことを伝えている。

 洪氏はかつて韓国の最左派政党「民主労働党」の役員を務めていた。だが、そこに主思派が浸透してきて、袂を分かった人物だ。

 洪氏によると、「従北勢力」と一括りにして左派を総称してしまうと、そこの奥に隠れている核心勢力を見誤ることになるという。核心部分に「従北」の主思派が存在し、その周辺に「親北」勢力(北朝鮮にシンパシーを持つ勢力)が”保護膜”の役割を果たし、さらに外縁には「温北」勢力(北に対して温情的感覚を持つ者)が存在すると説明する。

 かつて日本の学生運動の中心に「セクト」があり、周辺に「シンパ」がいて、さらに「大衆」がいるという構図と似ている。

 指摘したように80年代、90年代の学生運動が「自主」「民主」「祖国統一」という誰も反対できないスローガンに引き寄せられていき、少なからず、運動を主導していた主思派の思想的影響を受けていた結果、多くの者が「温北」以上のシンパ層になっていった。

 いまやるべきことは、李石基事件によって、中心にいる真の「従北」の実態を暴露し、「親北」「温北」の保護膜から孤立させ、「従北」を操っていた”黒幕”、すなわち北朝鮮の工作実態を暴露する重要な契機にしなければならないと、洪氏は強調する。

 ところが、韓国国会はこれほど「内乱陰謀」が明白な李議員の資格さえ、「司法判断を待つ」ことを理由に剥奪できずにいる。「無罪推定」を盾に、今でも李議員は国会内を自由に歩き回り、機密情報に接し得るのだ。さらに問題なのは、李議員の他にも「従北」議員がいることである。

 国会は捜査機関に先立って、「従北勢力を暴露する」役割を果たせるにもかかわらず、それをしない現状は、従北、親北、温北勢力が国会に蔓延している現実を物語っている。

編集委員 岩崎 哲