旅客船事故2ヵ月半、何も変わらない韓国

焼け太りする官僚組織

 「サッカーワールドカップで韓国が勝ち進めば、セウォル号のことは忘れてしまうだろう」

 知人の韓国人が半分冗談でこう言ったが、4月のセウォル号沈没事故から2カ月半が過ぎ、事故をきっかけに噴出した「官僚マフィア」など韓国のさまざまな“病理”への取り組みは遅々として進んでいない。

 それに“頼み”のW杯で韓国チームは予選リーグで敗退し、厳しい帰国セレモニーを受けた。沈没事故の悲しみを癒やすどころか、無念さを増し加える結果となっている。

 「月刊朝鮮」(7月号)の巻頭コラム「編集長の手紙」で崔秉黙(チェビョンムク)編集長が「事件の前と後、大韓民国は何が変わったのだろうか」と自問している。

 機能しない官僚組織の改革は、結局、ポストが減るどころか逆に増え、予算も災害対策、福祉関連で「10倍」に増え、事故の責任は海運会社の実質オーナー1人に被せながら、逮捕に至らず、間接的な責任を負う「海洋マフィア」と公務員への捜査は進んでおらず、国政調査委員会も政争の場にすぎない―のが現状だ。

 知人の予測は外れて、W杯で活躍しなくても、「韓国人は事故を忘れてしまった」ように見える。

 役人に役人を縛る法律を作らせることは土台無理な話で、「公職者倫理法改正案」では改革の意思だけは見せていると、崔編集長は評価するが、公務員再就職規定などは抜け穴だらけで、「実質、変わったものはない」のが実情だ。

 その一方で捜査当局による事故の解明は進んでいるようだ。「疑問はあっても疑惑はない」と崔編集長は言い、「進行中の疑問はかなり解けていくだろう」と見通す。

 であるならば、あえて作った国政調査特別委員会は何を行っているのか。「政争と言葉の羅列だけ」で、与党は「国民不満のはけ口」として、野党は「政府攻撃の好材料として活用する」その接点に国政調査があると見ている。

 したがって、国会での真相調査は「あまり真心を感じない」ものとなり、だから、事故や事故をもたらした体制の問題点の分析は「専門家に委ねるべきで、国会に持って行ってはならない」と釘を刺している。

 それやこれやでセウォル号沈没事故の調査は各所で行われてはいるものの、これをもってして、「大韓民国が変わるか」というと、崔編集長は悲観的だ。「事故の前と後、変わったことはあまりないと言わざるを得ない」というのが結論である。

 このままでは、300人近い死者・不明者を出した「西海フェリー沈没事故」(1993年)、500人以上が犠牲となった「三豊デパート崩落事故」(95年)、23人の死者を出した「シーランド修練院火災事故」(99年)などの大型事故の再発を防ぐことができるだろうか、との疑問が湧いてくる。

 役人は、国の別を問わず、事故や不祥事のたびに、ポストを増やし、予算を獲得して、最終受益者となり、“焼け太り”していくものだ。崔編集長は、「われわれ庶民から変わっていかなければならない」と結論付けているが、それが簡単ではないから、大惨事を繰り返しているともいえる。

 編集長の手紙は韓国民の実情を伝えている。

 編集委員 岩崎 哲