大胆に「日本と手を握れ」、超保守言論人の観点

北と対峙する現実を直視

 韓国の反日熱気のなかで、それでも「日本と手を握れ」と主張するのは、特にそれが言論の場合、“自殺行為”に等しい。

 元「月刊朝鮮」編集長の趙甲済(チョカプチェ)氏が主宰するネットメディア「趙甲済ドットコム」で、「大韓民国も生存と繁栄のために自由民主主義国日本と手を握るべし」という大胆な記事が掲載された。著者は同サイトの朴承用(パクスンヨン)氏だ。

 朴氏は原始の狩猟時代から説き起こし、土地すなわち生存基盤の奪い合いが戦争になり、帝国主義の時代には資源を求めて領土拡大が行われ、帝国は植民地を築いていったと説明する。

 だが、今日は「土地よりは科学技術に土台を置いた先端技術と国際貿易が富の主な源泉になる世界化の時代だ」として、「時代が変わった」ことを強調する。

 日本は韓国にとり「魂に深い傷を残し、いくら歳月が流れても消すことは難しい怨恨を残した」国だが、「必要なときは、生存と安全保障のために恩讐とも互いに親しく過ごすことも人間だ。利益になるときは、悪魔とも握手するのが人である」と述べる。

 日本は「悪魔」に比喩されてしまったが、韓国にこうした現実主義の発想があることは、日本にとってもプラスであることに変わりはない。

 朴氏がここまでして、恩讐を超えて手を握るべしという理由は韓国が北朝鮮はじめ左派思想勢力と対峙(たいじ)している現実があるためだ。「最悪の北朝鮮共産集団と、彼らの『トロイの木馬』である南側の従北勢力との戦いのためには、韓国は生存のために日本と手を握らなければならない」のである。

 それに、日本はかつての日本ではない。「自由民主主義という価値を共有する国だ。現在の日本は他国の土地を強奪する帝国主義国家ではない。そのような国になることもできない。時代が変わったのだ」と述べる。

 ここまでのことを言う言論人は少ない。趙甲済ドットコムで展開される議論は韓国の中でも「超」が付く保守の部類だが、こうした観点が存在し、一定程度、韓国民の支持を受けていることは認識しておくべきだろう。韓国も「反日一辺倒」ばかりではないのである。

 ただ、この記事には抜けている観点がある。それは「中国」だ。韓国は現在、対中外交を積極的に進めている。中国傾斜を深めていることに対して、日米など同盟国から強い懸念が出ているほどだ。

 「生存と安保のためには悪魔とも手を握る」の論理を、そのまま中国にも当てはめているのが現在の韓国である。対北朝鮮を考えれば、最大の影響力を持つ中国の理解と協力は絶対に必要であり、経済関係でも対日、対米を抜いて、中国は最大の取引相手国となっている。まさに「生存と安保」上、中国は韓国の生命線といってもいい。

 しかし、中国は事実上、共産党一党独裁の国であり、韓国が日米と共有している自由民主主義の国ではない。北朝鮮を「共産集団が支配する不倶戴天の敵」というのなら、中国も同じであるはずだが、不思議なことに、韓国で現在、中国共産党の独裁と少数民族・宗教弾圧を責める論調を見つけるのは難しい。

 習近平中国国家主席が韓国を訪問している。北朝鮮を訪ねる前にソウルに来ることで、対韓重視を強調するのが狙いと言われる。韓国がますます中国への傾斜を深めそうだが、「自由民主主義」という基軸をどうするのか注目である。

 編集委員 岩崎 哲