南北統一に反対する中国、朴大統領は「統一宣言」
対中傾斜の矛盾
韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が3月28日、独ドレスデンで「統一宣言」を発表した。前政権の李明博(イミョンバク)時代、ほとんど南北交流ができず、それまでの南北事業もルートが次々に閉ざされていた。この閉塞(へいそく)状況を打ち破ろうと出したのが具体的提案を盛り込んだ「ドレスデン宣言」だ。
だが、北朝鮮はこれに砲撃で応えた。黄海の韓国側海域にロケット砲を撃ち込んだのだ。韓国側は軍の規定に従って3倍の対応射撃を返した。さらに北朝鮮は青瓦台(大統領官邸)上空にまで無人機を飛ばすこともした。北メディアは連日、朴大統領を罵倒(ばとう)している。いわば“やりたい放題”である。これが宣言に対する北朝鮮の答えだ。
実際のところはどうなのか。直前まで南北離散家族対面が行われていた。これは3年ぶりに北が応じたものだが、その一方でミサイル発射実験を繰り返していた。北朝鮮の軍事示威行為は米韓軍事訓練の時期には決まって繰り返される“年中行事”でもある。こうした硬軟両面の対南攻勢が同時に行われており、南北の応酬を声の大きさだけで測ってはならないという見本でもある。
ただし、韓国で新大統領が対北政策を発表すると、きまって関係が悪くなるというのがこれまでのパターンだった。李明博大統領は「非核・開放3000構想」を出したものの、北にはまったく相手にされなかった。そればかりか、金剛山観光の中止、開城工業団地の操業停止にまでつながった。
朴大統領の宣言が実際にはどう北に受け止められているのかは、米韓訓練が終わってからでないと、本当のところは分からない。
さて、最近、韓国はとみに中国傾斜を進めている。朴大統領が対中外交を重視し、「流暢な中国語」で習近平国家主席と良好な関係をつくっている。対日外交では中韓で手を携えて攻勢を強めている。
「同盟国」である米国でさえ、そうした韓国の対中傾斜に懸念を示し、バイデン副大統領は訪韓時、「米国の反対側に賭けるのはよい賭けではない」と発言して、一時大騒ぎになった。「通訳の誤訳」ということで収めたものの、実際にはバイデン氏ははっきりと韓国の中国傾斜に不快感を示し伝えたのだった。
だが「南北統一」でもっとも大きな影響力を持つのは中国である。朴槿恵政府は、対中関係の構築は「統一」上、絶対必要条件だと判断している。もっと言えば、韓国にとって南北統一は「北朝鮮を中国から取り戻す」事業に他ならない。韓国の中では西独がソ連から東独を“買い戻した”前例が韓半島にも当てはまるという考えがある。
なので、韓国メディアは中国人専門家には必ず「南北統一」を聞きたがる。朝鮮日報が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(4月号)に中国の精華大学教授の狄瑞鵬氏へのインタビューが載っている。狄教授は「統一は韓国人が思う以上に先のこと」と発言している。
「今の北朝鮮は人間の本性を抑圧しているから、いつか崩壊するだろう」としつつも、狄氏は「統一が遅くなる」根拠として、「韓半島を取り囲む中国、米国、日本、ロシアの列強は南北が分かれている今の状態を望んでいる。統一より現状維持だ」と考えているからだと断言する。「崩壊するだろうが、統一は先のこと」と周辺「列強」が望んでいるというわけだ。
さらに狄氏は決定的なことを言う。「南北分断に中国が少なくない役割を果たしたが、韓半島統一が中国にとっていいわけがない。韓国がいくら悩んでも中国政府は統一を支持しないだろう」と笑い飛ばしたのだ。月刊朝鮮記者の落胆が目に見えるようだ。
バイデン副大統領がいうように朴槿恵政府は「間違った側に賭けている」のか。韓国の保守系メディアには、政府の中国傾斜に対して、逆の皿に重りを乗せる論調が増えているのも頷(うなず)ける。
編集委員 岩崎 哲