「統一大当たり」論

内外に説得がいる朴大統領

 「統一は大当たり」という言葉が大統領の口から発せられた。韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は年頭の記者会見ではじめてこの言葉を公で使った。「大当たり」とは「南北統一は大きな利益になる」ということである。

 長期間分断が続いたことで、南北の間には思想の違い、価値観の違い、さらには言葉の違いまでが深刻なレベルにまでなっていると認識されている。それは時々実施される「離散家族の対面」事業で、離れ離れになった肉親が数十年ぶりに会って感じる、その懐かしさを押し戻してしまうほどの違和感からも明らかだ。

 加えて、予想される南北統一に要する費用の膨大さから、韓国民の多くは、「このまま分断を固定して(分断維持)、別々の国として生きる(現状維持)」と考えるようにもなっている。「特に若い世代にその傾向が強い」(韓国大使館関係者)という。

 だが、この認識を変えたのが朴大統領の「統一大当たり」論である。眠らせて押し込めておいた「統一」がぬくっと起き上がった感じだ。しかし、それにはまだ多くの「懐疑」がついている。朴大統領はこの国民の疑問符を一つひとつ消して行き、「大当たり」であることを説得して行かなければならない。

 中央日報社が出す総合月刊誌「月刊中央」(2月号)に、「保守統一論VS進歩安保論」の記事が掲載されている。保守勢力が「統一」を論じるとき、進歩勢力は逆に「安保」を論じるというもので、朴大統領の「大当たり」に対抗して、野党進歩勢力が安保を言い出して牽制しているというのだ。

 大統領の言葉を受けて、政府与党はいっせいに“統一準備”に走り始めた。政府が大統領直属の「統一準備委員会」発足を明らかにすれば、与党内では既に「統一研究センター」「統一を開く議員の会」が立ち上げられる、といった具合だ。

 同誌は「6月の地方選挙が終われば、朴槿恵政府は本格的に南北関係に始動をかけるだろう」と予測し、朴大統領の動きの速いことを伝えている。

 だが、その前に大きな課題を朴槿恵政権は抱えている。「韓半島の統一は周辺国の理解と支援なくしては不可能」(同誌)ということである。朴大統領は就任以来、「周辺4強」外交を展開してきた。「4強」とは米国、中国、ロシア、そして日本である。だが、肝心の日本外交が南北統一を論じるどころか、両国関係でさえうまくいっていない。おそらく財政的支援で最も大きく期待されているのは日本なのだが、その日韓関係が行き詰まっていては、「6月以降、本格始動」することはできない。

 4月のオバマ米大統領の訪問を控えて、それまでに日韓関係を改善させるという「宿題」を抱えているものの、朴大統領には動く気配がまったくないのが現状だ。そして同誌はなぜか、この点には言及していない。

 同誌が問題視しているのは「進歩安保論」だ。進歩勢力が「安保」を強調し、「大当たり」論に水をかけているということだ。同誌は「朴大統領の“大当たり”論は、保守と進歩を一抱えにしてしまう効果がある」と指摘する。これに対する野党側の警戒と抵抗として「安保」論が出てきていると分析しているのだ。

 しかし進歩勢力の「安保」論の狙いは別のところにもありそうだ。孫鶴圭(ソンハッキュ)民主党元代表は、「いまは韓半島に平和を定着させるときだ」と強調する。大統領候補だった孫氏は学生時代、民主化闘士だった人物で、左派的傾向が強い。

 一見して、間違ったことは言っていないが、これは穿(うが)ってみれば、北朝鮮に猶予を持たせようと、朴政府の足を引っ張る狙いがあるともとれる。同誌の趣旨はこの点にあるわけだ。

 「統一大当たり」を実施して行く条件整理としての「4強外交」で対日関係が改善されていないが、同誌がこの点に触れなかったのは、韓国にとって、対日外交は表面に表れているほど強硬、深刻なものではないという、常に韓国側だけが持つ感覚がここにも出ている、ということなのかもしれない。

 編集委員 岩崎 哲