過去に拘る朴槿恵大統領、「親中反日」に手を焼く米国

安全保障を揺さぶる韓国

 中国と一緒になって「安倍叩き」「日本攻撃」を続けている韓国の朴槿恵(パククネ)大統領を米国は「親中反日」政治家と認識している――。

 米ワシントンでコンサルタント事務所を主宰している劉敏鎬(ユミノ)氏が「月刊朝鮮」(2月号)で指摘していることだ。劉氏は延世大政治外交学科を卒業した後、松下政経塾(15期)で学び、現在はワシントンで日米韓の政治を立体的に眺める立場にいる。

 そこから見える状況は、「韓日の過去問題で生じた不協和音が韓米、日米、さらに韓米日3国軍事同盟問題にまで影響を与えている」というものだ。

 劉氏は、「ワシントンでは朴槿恵大統領の歴史観に対する話が多い」と紹介する。あまりにも「過去歴史」に拘(こだわ)っていると映っているのだ。そして、「米国はこの問題に対して中立を守るというが、この問題は東アジア安全保障の安全弁まで揺さぶっている」として、状況に強い懸念を示してもいる。

 朴大統領の「歴史問題」への拘りについて劉氏は次のように紹介する。米国では「『過去の問題』を論じるのは平和と安定が前提だ」「危機状況や戦争状況で、過去の歴史を問い詰めるのは格別意味がない」と冷ややかであり、いわば「手を焼いている」感があるようなのだ。

 ところが、その米国が朴大統領への認識を若干改める事件が起こった。中国による防空識別圏の拡張である。この中に、韓国が領有権を主張している離於島などが含まれていたことから、韓国は中国に強く抗議した。

 今まで米政界では「朴槿恵は親中反日」と認識していたものだから、中国への反発を見て、喝采を上げた。劉氏は、「ワシントンのアジア専門家たちは久しぶりに韓国が中国に正面対抗しているという点で歓迎の拍手を送っている」と、その雰囲気を伝える。

 昨年12月、バイデン副大統領が訪韓した際、「米国の反対側に賭けるのは良くなかった」と発言し、物議を醸したが、これは言葉通り、韓国政府があまりにも中国との関係深化に集中し過ぎていることを警告したものだった。その中での中国への抗議だから、米国が少し胸を撫(な)で下ろしたのも無理はない。

 ただ、防空識別圏拡張への対応で、日韓には大きな違いがあることを劉氏は見逃していなかった。どういうことか。劉氏は「日本は日米同盟という枠組みの中で中国に対抗」しているが、韓国は「独自に動く状況」だと述べる。

 つまり、東シナ海に設定されている日本の防空識別圏は在沖米軍の行動範囲だ。ひとり日本だけの識別圏ではなく、米軍機の飛行空域になっており、中国との衝突は日本だけでなく、米国との緊張も生み出す。

 これに対して、韓国が問題視する離於島上空は既に日本の識別圏に入っており、日韓は重なりを問題視してこなかった。そこへ中国が被せてきたものだから、韓国としては韓中の懸案として対応することになり、米軍を含めた対応を韓国政府は考えていない、ということである。韓国は韓中関係に米国が加わってくる“連立方程式”の解き方をまだ出していないのだ。

 劉氏は、また、安倍晋三首相による日韓首脳会談呼び掛けを「対米用」だとみる。米国から見れば、日韓関係の悪化は東アジア戦略に歪(ひず)みを生じさせる。安倍首相の靖国参拝に「失望」のメッセージを出したのはそのためだ。

 だが一方で韓国の頑(かたく)なな態度も米国としては厄介だ。韓国が日本の集団的自衛権行使に対する懸念を引っ込めないことには、米国が進めている太平洋地域のリバランス(再均衡)のための日米防衛協力ガイドライン策定に影響するのだ。

 それを知っている安倍首相は米国の手前、首脳会談を呼び掛けている、と劉氏は指摘する。安倍首相の動機はそれだけではないだろうが、呼び掛けに応えなければ、今度は朴大統領の頑迷さが米国からも糾弾されるだろう。

 「韓国はいつまで過去に拘っているのか」という記事のタイトルは米国から朴大統領に向けた声なのである。

 編集委員 岩崎 哲