政治アイドルを崇拝する部族主義
韓国「97世代」の実像 文在寅政権のコンクリート支持層に
韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領には“鉄板支持層”が付いている。「97世代」というのだそうだ。「1990年代に学生で、1970年代生まれ」の意味だ。現時点で言えば「40代」、あるいは単に「70年代生まれ」と言えばいいものをわざわざ「97世代」という。
生まれた年代に学生時代の年代を合わせて使うのは、韓国政治に果たす大学、学生の役割が大きく、そこに政治文化や思想的背景があり、時代をつくっているからだ。日本でも「団塊の世代」「全共闘世代」等々の括(くく)りで理解される時代と世代の傾向がある。
97世代の上を「86世代」という。現時点で「50代」と理解しておけばいい。世代を括って数字で表すようになった最初が「386世代」で、「90年代に30代で、80年代の民主化運動に関わった60年代生まれの者を指す」という。しかし、これだと冒頭の「3」が変化するので外されるようになり、単に「86世代」と言われるようになった。
さて、97世代だが、東亜日報社が出す総合月刊誌新東亜(12月号)でネットメディア「第3の道」編集委員のナ・ヨンジュン氏が「97世代が民主党コンクリート支持層になった理由」を書いている。
文在寅大統領・与党共に民主党に対する支持率は40代が圧倒的だ。自身は80年代生まれの30代だというナ・ヨンジュン委員はこの理由について、真っ先に「自分の世代を代表できる政治集団の不在」を挙げた。
前述したように、韓国では学生運動から生み出される政治潮流が無視できない。それぞれの時代を牽引(けんいん)した学生運動がその後の政治家の揺籃(ようらん)にもなった。
80年代は光州事件から民主化に向かい、88年ソウル五輪の成功と、最もダイナミックに変化していった時代だ。この時も民主化を主導していったのは学生運動である。「運動圏」といい、その中核に「主体思想派」(主思派)という北朝鮮の疑似共産独裁思想に影響を受けた活動家たちがいた。
彼らはその後、社会の各層に入り込み、今や50代として社会を引っ張る主要世代となっている。政界はもちろん、官界、司法、マスコミ、学会、教育界など、ほぼ全ての分野で86世代が主導権を握っている。
一方、97世代はどうかというと、彼らが学生時代を過ごした90年代の韓国で「民主化(87年)以降の、直接選挙制導入、ソ連共産圏の没落、北朝鮮の経済難などを目撃しながらも、新しい運動として再誕生できなかった」とナ委員は書く。
民主化はほぼ成し遂げた。地方自治体の長など政府の任命だったものが直接選挙できるようになった。社会でも各種の民主化が進んだ。目前の“闘争目標”がおおかた達成されていたのだ。97世代は前世代のように“輝かしい活動歴”をつくれなかったのである。
加えて、86世代が政界進出して、いわゆる「制度圏」(体制)に入って行ったのに対して、97世代はせいぜい「進歩政党に入って夜露をしのぐ」だけだった。
構図的には主導権を握る86世代の“下働き”のような地位に97世代は甘んじているのが現状だとナ委員は指摘する。
それなのになぜ97世代はコンクリート支持層になっているのか。ここからのナ委員の分析はユニークである。97世代の政治への関わり方は「ファン心理」だというのだ。盧武鉉(ノムヒョン)大統領の「ノサモ」(「盧武鉉を愛する集まり」の略)や、「ナコムス」(自分はけち臭い奴(やつ)だ)が「当時民主党支持層の政治的共通教養」になっていた。「好みと遊びの要素」が政治運動に入って来た、という分析だ。
そうしてみると、与党系政治家が明らかに非があるにもかかわらず熱狂的支持を受ける理由も分かってくる。家族スキャンダルで退任した●(「恵」の「心」を「日」に)国(チョグク)元法相、部下へのセクハラで辞任した安熙正(アンヒジョン)元忠清南道知事、同じくセクハラを追及されて自死した朴元淳(パクウォンスン)前ソウル市長など、みな元学生運動家、左派人権活動家だが、ファンはアイドル(偶像)の不祥事には目もくれないのだ。
ナ委員はこれをして、「政治アイドルをトーテムとして崇拝する部族主義」と規定した。腑(ふ)に落ちた分析である。
編集委員 岩崎 哲