「不動産問題」が命取りに
世論が離れ始めた文政権
韓国の文在寅大統領支持層は約30%と言われている。この周りに学生時代に左派思想の洗礼を受けた「86世代」(1980年代学生で60年代生まれ)が取り囲み、半分を超える支持率を保っていた。
それがこのところ「不支持」が「支持」を上回るようになってきている。進まない南北関係、米中対立の狭間(はざま)で腰の定まらない外交、悪化するばかりの対日関係、これらも不支持の要因だろうが、決定的ではない。国民の気持ちを変えたのは「不動産問題」という内政問題だった。
「不動産問題」とは、高騰して到底庶民の手に入らない高級マンションを政権幹部や高級官僚が複数所有していることで、国民の強い反発が起きている問題だ。マンションの複数所有を制限しようとしたところ、大統領府の幹部官僚が何人も辞任してしまった。「不動産を手放すくらいなら、地位は要らない」というのである。
月刊中央(9月号)によると、現在「ソウルのマンションの平均売買価格は10億ウォンを突破した。特に江南区は20億ウォンを超えた。経済正義実践市民連合は7月21日『ソウルのマンション相場分析』を発表。文政府発足後、価格は平均8億4200万ウォンから12億9200万ウォンと53%(4億5000万ウォン)上昇した。上昇幅基準で歴代政権の中で最も大きい」という。
韓国では大学を卒業して幸運にも企業に就職できたとしても、到底アパートを手に入れることはできず、結婚もおぼつかなく、結果、少子化が日本以上のスピードで進んでいる。
これを反映して「7月の大統領職務遂行評価で『よくやっている』が46%(5月には67%)、『やっていない』が44%(同25%)となり、わずか2カ月で国民の20%(約1000万人)が『支持』から『不支持』に転じたのだ」としている。
これに慌てた文政権は「首都機能移転」だとか、ソウル、仁川、京畿道など首都圏の開発制限地区「グリーンベルト」の段階的解除だとかを打ち出すが、付け焼き刃の対策は混乱を招くだけで、決定的な不動産対策とはなり得ず、国民の不満ばかりが増している。
同誌は、「政府与党は不動産トラップから脱出しようともがけばもがくほど深い泥沼に嵌(はま)る格好だ」とし、「文大統領が任期末のレームダック化という歴代大統領の前轍(ぜんてつ)を避けるのは難しいだろうとの見通しさえ出ている」と結ぶ。
積弊清算を掲げた文政権は「権力者と不動産」という積弊の清算に失敗して、保守・進歩の別なく辿(たど)った権力者の末路に向かっているようだ。
編集委員 岩崎 哲