北朝鮮異常事態に万全の備えを

甲午で巡りくる大きな変化

高まる軍事安保のリスク

 「甲午(きのえうま)」は何かが始まる年だという。いまの日本で今年が「甲午」だといったところで、特別な感想を抱く者はそう多くない。だが、干支(えと)や四柱を生活の一部にしている韓国では、甲午年を迎えて、対北朝鮮の面で「軍事安保のリスクが高まっている」という分析が出されている。

 「月刊朝鮮」(1月号)に「張成沢粛清以後2014年の安保戦略」の原稿が寄せられた。著者は金秉寛(キムビョングァン)予備役陸軍大将(陸士28期)である。金氏は軍人には珍しくソウル大学を卒業後、京畿大大学院で軍事政治学を専攻し、米スタンフォード大学でも学んでいる。

 金氏は、過去の甲午年を振り返る。1894年には「東学農民運動と甲午改革を通じて、新しい時代に適応しようとしたが、改革は水泡に帰した」と述べる。朝鮮近代化の試みは王朝内部の対立混乱であえなく潰された。それだけでなく、日本と清国の介入を招き、日清戦争に発展した。ありがたくない甲午年だったわけだ。

 次の甲午は1954年だった。この年は韓国動乱(1950~53)が休戦した翌年で、確かに「荒廃した国土を再建して発展させる」出発の年になっている。

 そして、今年だが、昨年、北朝鮮でナンバー2だった張成沢(チャンソンテク)国防委員会副委員長が粛清され、金正恩(キムジョンウン)第一書記の「権力掌握力がより強く」なって出発した年と分析されている。だが、金氏は逆に「軍事安保的側面から見れば、北朝鮮の危険性ははるかに高まっている」と警戒感を示す。

 何が問題なのか。金氏は比喩で説明する。ある日突然ホワイトハウス(米大統領府)から青瓦台(韓国大統領府)に電話がかかってきた。「北朝鮮で非常に深刻な事態が発生した。米国政府は日本、中国など関係国と協議するが、韓国はどんな措置をとるか、支援することはあるか」と聞いてくるだろう、と予測するのだ。

 その時、「韓国政府は自信を持ってきっぱり行動する準備ができているのか」というのが金氏の憂慮だ。「5年以内、もしかしたら今年にも北朝鮮内部で重大事態が発生する可能性もなくない」と見る金氏は、「今こそ、完璧な対応策の点検が必要な時だ」と強調する。

 実際、現在の朴槿恵(パククネ)政府には確固とした対北朝鮮政策があるのだろうか。前任の李明博(イミョンバク)政府は、当初「非核開放3000」政策を掲げ、非核を実行すれば、経済再建の責任を韓国が果たすという壮大な対北プランを打ち出したが、金剛山韓国人観光客射殺事件(2008年7月)、天安艦爆沈事件(10年3月)、延坪島砲撃事件(10年11月)などで一気に冷え込み、事実上、一歩も進展はなかった。それどころか、開城工業団地の操業停止(13年4~9月)があり、対北関係は後退したままで終わった。

 朴政権は「韓半島信頼醸成プロセス」を打ち出している。しかし、いまだ北朝鮮との対話さえできていない状態で、肝心のプロセスの中身も分からない。まず、相手に「誠意」や「信頼」を要求し、それを確認しなければ、一歩も前へ進もうとしないのが、この1年間見せられてきた朴槿恵氏のスタイルだ。先に北朝鮮に変化を求めること自体、無理がある。金氏の心配も当然のことだろう。

 さらに、中国が「無断介入」してくる場合の対応策にも金氏は言及している。中国が日米韓など周辺関係国に諮ることなく介入し、「北朝鮮政府の衛星政権化」を行えば、韓国にとって「致命的な脅威要素」になる。

 これに対しては「米韓同盟で対応する」ことが基本だが、韓国の憂慮は「対米協力事項が中国に明白な危害を加える水準にならないようにしなければならない」という点だ。つまり、韓国は米国と中国との間に立って、両者の衝突を避けつつ、バランスを取っていかなければならないということである。かつての日本と清国が衝突したような事態の再来は避けたい、ということで、ここに韓国の置かれている地政学的位置の難しさがある。

 甲午で想起する韓半島の状況は120年が経過しても、あまり変わっていないということだ。その意味で、金氏が甲午から説き起こした理由も理解できる。

 編集委員 岩崎 哲