韓国の生存戦略、「東アジアのハブ化」案も

 日本の「失われた20年」を間近で見ながらも、不動産バブルの崩壊、少子高齢化、内需の委縮、個人破産などの危機をほとんど無為無策で眺めていた韓国は、いまそれらの大きな“津波”に襲われようとしている。

 ただでさえ、韓国は北朝鮮という不確定要素を抱えながら、さらに中国の覇権追求、日本の「普通の国」化、米国の相対的衰退という対外環境の大きな変化にも曝(さら)されている。

 1年前にスタートした朴槿恵(パククネ)政権はこうした内憂外患にほとんど対処できていないのが実情だ。激しい労使紛争、鉄道スト、唯一の頼りであるサムスンの陰りなど、黄色信号が灯(とも)りながらも、大統領選挙“不正”をめぐって政争に明け暮れていただけで、「経済民主化」も景気浮揚もなにもできずに1年を過ごしてきた。

 外交に至っては、日本とは経済・安保で重要な二国関係にあるにもかかわらず、「告げ口外交」を繰り返すばかりで「反日」から一歩も出ず、米国との間にも隙間風が吹いている。頼りにしようとした中国とも、防空識別圏に離於島が含まれ、黄海での漁業衝突など懸案が多く、これも前に進めていない状態だ。

 北朝鮮は政権ナンバー2の張成沢(チャンソンテク)粛清で、金正恩(キムジョンウン)体制がどこへ向かうのか、いつ暴発するのか分からず、対話の道も閉ざされたままだ。

 そうした内外の危機を目前にしている「韓国の生存戦略」について、「月刊朝鮮」(1月号)に朱明建(チュミョンゴン)世宗大名誉理事長が「3大危機と6大克服案」を寄稿した。韓国が直面している「3大危機」とは、①中国の影響圏下に置かれる②深刻な少子高齢化③増える福祉足りない予算―の3点だ。

 韓国は既に日米との貿易が減る一方で、中国との取引が1992年に比べて3倍に拡大している。輸出の3分の1が中国向けだ。そこまで深々と中国に依存しながらも、「政治的には米国と同盟関係を維持するねじれ状態に置かれている」と朱理事長はいう。

 少子高齢化は深刻だ。既に出生率は世界最低の1・24人。急速な高齢化で、老後の準備ができないこともあって、老人自殺率は「10万人当たり79・7人」とOECD国家の中で最多。

 消費と投資が委縮して、家計貸出を増やした結果、「不動産市場のバブルを育て」「ハウスプア(元金利子総額が総所得の30%を超える世帯)」が「32万世帯」にまでなっている。「住宅担保貸出者の16%」だというから、彼らが自己破産すれば経済は崩壊の危機に直面する。

 こうした危機に対して、朱理事長が提案する代案は「東アジアのハブ化」だ。物流、観光、金融のハブを目指し、教育制度改革、積極移民政策、生産基地化を推進していくというものである。

 構想の大きさに比して現実は厳しい。日本と中国に挟まれて、物流のハブとなっていくために、朱理事長の構想では仁川地域の総合開発がまず行われなければならない。だが、港湾一つとっても、干満の差が8㍍もあるこの沿岸で良港が作れるかどうか、大きな課題だ。

 観光ハブ構想も要するに「カジノ」に頼るところが大きい。江原道のカジノでは自己破産し、破たんする者が多数出ているのに、嗜好(しこう)性の強いカジノはどうだろうか。金融に至っては香港、東京、上海に肩を並べてソウルが競争できるのかも不明だ。

 結局、日本、中国に挟まれた地政学的宿命の中で生存戦略を練っていかなければならない韓国としては、この両国との良好な関係なしには構想もプロジェクトも成り立たない。

 そこを逆に、「強大国の接点にある韓国は逆説的に世界の中心にならなければ生存できない」として打って出る韓国の積極策は吉と出るか凶と出るか。博打(ばくち)をするにはあまりにもリスクが大きすぎる。

 編集委員 岩崎 哲