失敗した「非核化詐欺」劇 虫のいい北の要求、米は拒否

“赤化統一”の下心を見抜く

 昨年は1年を通して「最悪の日韓関係」ばかりに目が行き、朝鮮半島の全体情勢は意図的にそうされたのか、霞(かすみ)がかかったような状態だった。だが、そこでの最大課題は「北朝鮮の非核化」であることに依然変わりはない。

 韓国で文在寅政権が誕生(2017年5月)してから、首脳会談を含め、複数回の南北対話が行われ、数々の合意も成されたが、それで半島の情勢は安定し「非核化」が進展したのかといえば、そうではない。その状況に韓国メディアもようやく気付き、「この2年間」を検証する企画記事が月刊誌に出るようになった。

 朝鮮日報社が出す総合月刊誌月刊朝鮮(2月号)が「失敗した非核化詐欺」の長大な記事を掲載した。この“詐欺劇”の主演はもちろん北朝鮮労働党委員長の金正恩、相手役が米大統領ドナルド・トランプ、そして“保証人”が文在寅だ。

 この劇のスタートは18年1月、金正恩が韓国平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加意思を表明して始まった、ように見えるが、実は前年6月、大統領就任1カ月後に早くも文在寅は南北統一チームの提案を行って、南北融和の雰囲気醸成を既に進めていた。

 だが、この間にも北朝鮮は国連制裁決議に違反するミサイル発射実験を繰り返し、挑発を続けていた。それでも文在寅の北へのラブコールは揺るがず、併せてトランプへの“説得”工作も行われていた。

 こうした配役はこの詐欺劇で一貫したもので、北朝鮮が核・ミサイル実験や制裁破りを平然と行い、米国がこれに警告・圧力を加え、韓国が米を宥(なだ)めて北の弁解をして回る、という役回りだ。文在寅が「金正恩の首席報道官」と揶揄(やゆ)される所以(ゆえん)である。

 このペテンが破綻したのが第2回米朝首脳会談である。19年2月にベトナムのハノイで行われ、成果なく終わった。北は既に用済みが歴然の寧辺(ニョンビョン)核施設を廃棄する代わりに国連制裁の解除を要求したのだ。「エビでタイを釣る」とはいうが、寧辺はエビですらない。こんな虫のいい要求をビジネスマンのトランプがのむはずもなかった。

 タイが釣れないことが分かった金正恩は次々にミサイル実験を繰り返す。そしてついに米本土を打撃できる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を19年10月に行い、これも米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)と推定されるミサイルの発射実験を同年12月に行っている。

 北朝鮮が繰り返し米国を挑発するのは、米国に振り向いてもらい、米国による「体制保証」を得るためだ。北朝鮮の最優先事項は「最高尊厳」の保持、つまり金正恩体制の維持である。そして、米国との直接交渉によって休戦協定を終わらせ、平和協定を結ぶことである。だから、北朝鮮への武力行使が起こってはならないのだ。文在寅も「誰も大韓民国の同意なしで(対北朝鮮)軍事行動を決められない」(19年8月)と援護射撃をする。

 しかし米国としてはこのような金・文要求をのむわけにはいかない。彼らの“底意”が問題だからだ。月刊朝鮮は北朝鮮の、そしてそれを援護射撃する文政権の狙いをこう指摘する。

 「北朝鮮が主張する『平和協定』は米国との『終戦』を前提とする。北朝鮮は『戦争が終わった』という名目で在韓米軍を撤退させた後、“赤化統一”をするという下心で粘り強く『平和協定締結』を主張してきた」

 文在寅は今年の新年の辞で「わが政府になってから平和が大股で近寄ってきた」と自画自賛。そして、南北首脳会談で約束した金正恩の韓国訪問が実現できるよう条件整備に努めるとの決意を述べた。さらに「開城(ケソン)工業団地、金剛山観光の再開」も目指すと言う。これらの実現には国連制裁の解除が必要で、制裁解除の条件は「非核化」である。しかし、文在寅の口からこの言葉はまったく出てこなかった、と同誌は書く。

 論理が通じないのか、すさまじい鈍感力があるのか、思想的確信者なのか、この大統領への評価は韓国民が下すべきだが、それが4月の総選挙に反映されるのかどうか、注目である。(敬称略)

 編集委員 岩崎 哲