ウクライナ大統領選、30人が立候補
現職ポロシェンコ氏は苦戦
ウクライナ大統領選(3月31日投票)の立候補受け付けが2月3日に締め切られ、30人の候補が出そろった。過半数の支持を集め得る候補はいない。現職のポロシェンコ氏も苦戦気味であり、混戦となるもようだ。
(モスクワ支局)
露はティモシェンコ氏に期待?
当初、大統領選出馬を表明したのは80人ほど。それと比べると減ったが、30人の大統領候補者名が並ぶ名簿は圧巻である。もっとも、野党候補に不利になるよう、浮動票を分散させる目的で政権側が背後で糸を引いて立てた候補によって、水増しされた数字であることを考慮する必要がある。
ほとんどの候補が欧州志向と、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指す方針を掲げている。このため、どのようにして他候補との違いを有権者にアピールするかが、各候補の課題だろう。
現時点で選挙戦のトップを走るのは、俳優やプロデューサーなどとして知られるウラジーミル・ゼレンスキー氏(41)。親露派のヤヌコビッチ大統領を退陣に追い込んだユーロマイダン(2014年ウクライナ騒乱)を支持し、ロシアや、ウクライナ東部の親露独立派のリーダーらをからかう言動を続けている。
その一方で、ウクライナ政府によるロシア文化人らの入国禁止措置には反対。ウクライナ東部紛争の終結を公約に掲げている。
当選する可能性はあるものの、苦戦しているのが現職のポロシェンコ氏(52)。ポロシェンコ大統領は、ウクライナの悲願だった欧州連合(EU)へのビザなし渡航や、ロシア正教会の管轄下に置かれていたウクライナ正教会の独立などを勝ち取った。汚職問題は依然として存在するが、警察を含む官僚機構の改革も進んだ。
しかし、人々は紛争や経済危機に疲れている。「ポロシェンコ大統領の下でこれら状況が良くなるとは思えない」というのが、支持率が低迷する大きな理由だ。
事実上唯一の親露派候補が、ユーリー・ボイコ元副首相(59)。大統領への権限集中を見直し、地方により大きな権限を与える「地方分権」を唱える。また、電気、ガス、水道などの公共料金を半額にするという。
ボイコ氏を擁立した野党連合「野党プラットホーム―生活のために」の創設を主導したのは、クチマ政権下で大統領府長官を務めた有力政治家ヴィクトル・メドベドチュク氏。ロシアとのつながりは太く、プーチン大統領は2004年、メドベドチュク氏の娘に洗礼を与えている。
支持率でゼレンスキー氏に次ぎ、現職のポロシェンコ氏にとって最大の対立候補となるのがユリア・ティモシェンコ元首相(57)。野党「祖国」代表。政治家としての経歴は長く、大統領選に立候補するのは3度目だ。
ティモシェンコ氏はウクライナの有数のオリガルヒ(富豪・政商)で、ポロシェンコ大統領と対立するイーゴリ・コロモイスキー氏の支持を受ける。
また、ウクライナの天然ガス会社ウクルガスエネルゴなどを持つオリガルヒ、ドミトリー・フィルタシュ氏が支援しているとのうわさもある。
ティモシェンコ氏は「国家の新方針」として、親露独立派が実効支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」との関係構築を掲げる。両「共和国」との関係構築は、ウクライナなどの領土保全などを取り決めたブダペスト覚書(1994年)をベースとする。
ロシアにとって最も好ましい候補はティモシェンコ氏。ロシアには、2014年に併合したクリミアをそのまま残す一方、ドネツク、ルガンスク両共和国をウクライナに“返還”することで、ウクライナとの関係回復を実現するシナリオを描いている、との見方がある。
もしこれが実現すれば、ロシア経済に深刻な打撃を与えている対露経済制裁の緩和、もしくは解除が視野に入る可能性がある。
ティモシェンコ氏はロシアとのつながりに疑念を持たれており、反発する勢力も多い。ティモシェンコ氏の当選を阻止するため、選挙期間中に何らかのスキャンダルが持ち上がる可能性も指摘されている。







