独政局、ポスト・メルケル時代に
メルケル独首相は10月29日、ベルリンでの記者会見で12月初めにハンブルク市で開催の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)党大会で党首選に出馬しない意向を表明する一方、首相ポストは任期満了になる2021年まで務め、その後はいかなる政治ポストにも就かないと述べ、政界から引退する意向を明らかにした。ポスト・メルケル時代がいよいよ始まろうとしている。
(ウィーン・小川 敏)
クランプカレンバウアー氏 党幹事長に抜擢
シュパーン氏 保健相で口塞ぐ
メルケル首相の党首辞任表明は10月に実施されたバイエルン、ヘッセン両州議会選でのCDUの惨敗がきっかけだが、「党首辞任はこの夏に既に決心していた」と述べ、18年間務めたCDU党首の辞任は2州議会選の引責によるものではないと説明している。
辞意表明を受け、党内では既に「われこそは後継者」といった出馬宣言まで出てきている。
第1候補は、アンネグレット・クランプカレンバウアー党幹事長(56)だ。メルケル首相は今年、ザールラント州首相のクランプカレンバウアー氏を党幹事長に抜擢(ばってき)した。州首相を党幹事長に抜擢するというのは通常の人事ではない。メルケル首相はこの人事を通じ、党内でくすぶり続けてきた後継者問題を鎮静化するため、幹事長を自分の後継者に担ぎ出したものと受け取られた。
クランプカレンバウアー氏はここにきて、社会民主党(SPD)との大連立政権に批判的なコメントを発するなど、独自色を出す努力をしている。目下、後継者レースで本命だ。
第2候補は、CDU内の反メルケル派の若手筆頭、イェンス・シュパーン議員(38)だ。メルケル首相は同議員を第4次メルケル政権の保健相に抜擢した。政権内に批判者を引き入れることで、その口を塞ぐやり方だ。政敵やライバルを外に放置せず、政権内で一定のポストを提供して飼いならす伝統的な手法である。
CDU青年部ではシュパーン議員支持の声が出ている。同議員はメルケル首相の難民歓迎政策に対しては批判的なスタンスを取り、「若く、野心的で演説がうまい」(独週刊誌シュピーゲル電子版)。メルケル政権下で失われてきたCDUの保守主義への回帰を目指す。
第3候補は、フリードリヒ・メルツ氏(62)だ。2000年から02年まで連邦議会のCDU議員団長を務めた。02年、メルケル首相との党内争いで敗北。09年に政界から引退し、弁護士業に戻った。ここにきてメルケル首相の後釜に意欲を見せているという。経済分野ではリベラルだが、他の分野では保守的。年齢的にまだ十分若いが、同氏の党首選出はCDUの刷新、再出発といったイメージには合わない面も否定できない。
以上の3人が、メルケル首相の有力後継者候補とみられている。
それ以外としては、ラインラント・ブファルツ州のCDUトップ、ユリア・クレックナー氏(45)、ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン国防相(60)の2人の女性の名前が挙がっている。クレックナー氏は11年以来、ラインラント・ブファルツ州議会議員団長を務めている。02年から11年までドイツ連邦議会議員。メルケル首相より保守的と受け取られている。敬虔なカトリック教信者。ライエン氏はメルケル首相の後継者最有力候補者として久しくその名前が挙がってきたが、その勢いはもはやない。7人の子供を持ち、医師でもある。
男性候補者としては、ノルトライン・ウェストファーレン州首相のアルミン・ラッシェット氏(57)とシュレースウィヒ・ホルシュタイン州のダニエル・ギュンター州首相(45)だ。ラッシェット氏はドイツ最大のノルトライン・ウェストファーレン州出身で13万人のCDU党員を抱える党の最大基盤だ。穏健でメルケル首相の難民政策を擁護してきた。メルケル氏に忠実な幹部だ。
一方、ギュンター氏はシュパーン議員と同様、若手のホープ。CDUが世代交代をアピールしたい場合、同氏は有力だろう。政策的にはラッシェット氏に近い。
12月開催のCDU党大会で新党首が選出された場合、メルケル氏に首相ポスト辞任要求が出てくることは必至だ。メルケル氏は過去、「党首と首相は同一の人物であるべきだ」と主張してきた。党首の座を失ったメルケル氏が任期満了の21年まで首相ポストを務めるというシナリオは非現実的だろう。