国論二分の様相、7日に仏大統領選決選投票
フランスの大統領選挙は5月7日に第2回投票が行われる。第1回投票に勝ち残ったルペン、マクロン両候補の国家観は極端に異なり、国を二分する選挙戦が繰り広げられている。欧州連合(EU)への不信感や移民への嫌悪、極端な競争社会を懸念する有権者たちの複雑な心境が錯綜(さくそう)している。
(パリ・安倍雅信)
マクロン氏優位だが格差拡大の印象も
ルペン氏は移民排撃と雇用拡大が浸透
今回の大統領選について第1回投票後、複数の仏メディアが「前代未聞の選挙結果」「第5共和制の危機」などと報じている。その理由は第2回投票に勝ち進んだ2人は、いずれも既存の主要政党に属さない候補者だからだ。主要政党への信頼は極端に低下している。
フランスの政治は、ミッテラン左派政権、シラク右派政権、ジョスパン左派政権、サルコジ右派政権、そしてオランド左派現政権と時計の振り子のように左右に振れてきた。
国民の最大の関心事は雇用問題で、25年前に10%を超えて以来、失業率は大幅に改善したことがない。膨らむ財政赤字を改善する試みも苦戦が続き、何度も公務員改革や税制改革に取り組んだが、国民の抵抗に遭い挫折している。
景気低迷の長期化とともに、国際市場の競争激化で生産拠点の国外流失、特にポーランド、スロバキアなどのEU域内の賃金の安い加盟国への工場の移転にとどまらず、中国やベトナムなどへの流出により、産業は空洞化している。
一方、移民の増加はフランス人の職場を奪っただけではなく、アラブ系移民が持ち込んだイスラム教が、伝統的価値観を根底から揺るがせている。
イスラム系移民社会では、社会の底辺で差別や貧困に苦しむアラブ系移民の若者たちが、聖戦主義に走る現象が近年加速し、白人の若者も毎年数千人規模で過激思想に染まっていると言われている。今やフランスは、シリアやイラクの戦闘地域へイスラム過激派の戦闘員を送り込む最大の供給国となり、彼らが帰国後、仏国内でテロを実行したりしている。
2015年11月にパリのバタクラン劇場などで起きた大規模な連続テロ以降、非常事態宣言が出されたままで、テロの脅威は収まる気配がない。多様な民族、宗教が同居するフランスの国民は今、過去のどの時代より不安の中で生活している。
今回、11人の候補者から決選投票に進んだ2人は、政権を担ったことのない右派・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)と、昨年8月に社会党を出て自身で立ち上げた政治運動「前進」のエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相(39)だ。
ルペン候補は第2回投票まで一時的にFN党首の座を離れているが、父親でFNの創設者、ジャン=マリー・ルペン氏が2002年の大統領選で第2回投票に勝ち進んだ経緯がある。当時は反ルペンの国民的運動が巻き起こり、マスコミもルペン氏潰しの報道を繰り返し、現職のシラク氏が先進国としては異例の8割を超える得票率で再選された。
しかし今回は、当時と異なり、国民的規模のルペン勝利阻止運動は起きていない。この10年間、FNは確実に政治基盤を整えてきた。2014年の統一地方選挙では10以上の自治体で首位となり、欧州議会選挙では得票率でトップとなるなど躍進は止まらなかった。
移民や治安、失業問題に対し、FNは過去の反共、移民排撃路線だけでなく社会保障の充実などの政策で、グローバル化に取り残された労働者階級や貧困層の取り込みにも成功している。反EU、脱ユーロの保護主義的主張も支持されている。
一方、中道のマクロン氏は多くの政治エリートを生んだ国立行政学院から仏会計検査官、ロスチャイルド銀行のフランス部門で副社長にまで登り詰め、大統領府副事務総長、経済相などを務め、絵に描いたようなエリートコースを辿(たど)ってきた。親EUで経済のエキスパートという意味でフランスの長年の課題である景気回復への期待が持たれている。
半面、国民が一般的に嫌う過度な競争を強いる資本主義、グローバリゼーションが加速し、さらに社会の格差が広がるとの不安が持たれている。
6月の総選挙で議会内の政党勢力図がどうなるのか、まったく予想がつかない異例の事態だ。