勢い止まらぬ仏国民戦線

来春の選挙で躍進予想

困惑する中道右派政党

 フランスの左派、オランド大統領の支持率が歴代最低を記録する中、右派政党・国民戦線(FN)の勢いが止まらない。来春に予定される欧州議会選挙や地方議会選挙でも躍進が予想され、与党左派、野党中道右派政党内は揺れている。欧州連合(EU)全体でもEU統合に反対する右派政党が勢いづいており、政治の行方が注目される。
(パリ・安倍雅信)

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5月1日、パリで行進する右派政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(前列左から2人目)と父ジャンマリ・ルペン前党首(右から2人目)ら(AFP!時事)

 10月6日、フランス・ヴァール県議会のブリニョール郡選出の補欠選挙の第1回投票で、FNが支持する元ボクサー、ロラン・ロペーズ候補(48)が40・4%の得票率で他の候補者を圧倒した。第2回投票では、最大野党・中道右派の国民運動連合(UMP)の候補者を敵に回して、54%の得票率でロペーズ候補が圧勝した。

 同選挙の第1回投票の結果は、UMPのデルゼー女性候補が20・8%、共産党候補者は14・6%だったが、今のフランスの政治状況を象徴する補欠選挙だった。特にFNは「過去のいかなる時期よりも勢いがある」(仏国営TV・フランス2)と言われている。

 実は今回の選挙は、FNと共産党が議席を奪い合う激戦地での因縁対決だった。落選したジラルド候補は2年前にFN候補者に5票差で勝利したが、FNが不服を申し立て行政裁判の判断で昨年夏に再度選挙が行われ、ロペーズFN候補者に勝利したが、またも無効とされ今回に至った経緯がある。

 しかし、今回はロペーズ候補が余裕で当選を果たし、地元選挙民の左派離れが明確になった。ダメージを受けた左派現政権のエロー仏首相は「FNの勝利は地方レベルにすぎないものだ」と弁解したが、足元の社会党内では不安が広がっている。

 実際、2014年5月に予定されている欧州議会選挙に対して、フランスで10月に仏世論調査会社、IFOP社が行った支持政党に関する世論調査で、来春の欧州議会選挙でFNに投票すると答えたのは全体の24%、2位はUMPの22%、与党・社会党は19%で3位にとどまった。

 FNは現在の党首、マリーヌ・ルペン女史の父、ジャンマリ・ルペン氏によって創設され、右派の小政党から支持率を伸ばし、1980年代には国民議会選挙に議席を確保した。EUの中で右派政党として最も政治基盤を持つFNは、2011年に娘の代になり、右派の政策から保守の幅広い層に支持されるようになっている。

 移民排撃はユダヤ批判の目立った父の代と違い、FNの主張はEUから国家主権を取り戻し、フランスの歴史や文化、価値観をしっかり継承しながら、国家アイデンティティーを明確にするというものだ。過去には移民に職を奪われた失業者などの貧困層の白人の若者が支持者の中心だったが、今は高所得者層も多い。

 FN選出の元国民議会議員で欧州議会議員でもあったピエール・セラーク氏は本紙記者とのインタビューで「左派が強いフランスで、FNは一貫して強い反共運動を展開したために、左派はFNのネガティブキャンペーンを展開し、実像から程遠い全体主義的な極右のイメージを仏国民に植え付けてしまった」と指摘している。

 しかし、同氏は「マスコミを含め、あれほどひどいキャンペーンを継続してきたにもかかわらず、FNは確実に支持を伸ばしてきたのは良識ある国民が多いからだ」と述べている。また、昨年退任したサルコジ前仏大統領の主張にFNとの類似点が多かったことから、国民の支持を得るためにはFN支持者を無視できない段階に入っているといわれている。

 FNは10月1日付の仏週刊誌レクスプレスで「極右という言葉の使用に対して告訴する」「極右は蔑視用語であり、FNを中傷する政治的偏向であり、侮辱だ」と主張し、マスコミでの極右レッテル貼りに対抗しようとしている。

 大企業の大規模な人員削減による高失業率の継続、政府の推し進める増税路線やイスラム系移民のみならず、旧中・東欧からの移動民族、ロマなどの流入による治安悪化など、フランスには出口の見えない課題が山積している。そのためFNの伸長の理由を社会不安の解決を既成大政党ではなく、FNに求めていると指摘する分析も聞かれる。

 しかし、FNは他の欧州諸国に比べ、民族主義的色合いは非常に弱く、「フランス人のためのフランス」をモットーに、今や政権政党への脱皮を試みている。事実、フランス人は3代さかのぼれば、外国からの移民といわれるほど、もともと多様な背景を持つ人々の集まりだ。

 そのため人種的には、せいぜい出身が欧州系か非欧州系かという分け方をしているだけで、むしろ伝統的フランスの価値観を受け入れ、定着する人を擁護している。だが、多くのイスラム系移民は、カトリックのルーツを持つフランスの価値観を受け入れておらず、多くの在仏イスラム教徒が、「価値観の同化はあり得ない」としている。

 サルコジ前政権を支えた中道右派のUMPは、来年の欧州議会選挙や地方議会選挙に向け、FNとの共闘の話も浮上している。既に南仏のニースやアビニョンでは現実味を帯びていると11月18日付の仏日刊紙、ルモンドは指摘している。

 最近では、フランスを代表する往年の映画俳優、アラン・ドロン氏が公然とFN支持を表明するなど、その勢いは止まらない。昨年の大統領選挙では第1回投票で3位につけたマリーヌ・ルペン党首は、今は2017年の大統領選挙の有力候補と目されている。

 今年春、左派政権は同性婚や同性カップルの養子縁組の合法化を成立させ、アラブ系移民の若者のテロへの関与やイスラム教への改宗が増加するなどしている。これらの現象に危機感を募らせる国民は多く、フランスの価値観の崩壊を憂える有権者がFN支持に回っている。今後もこの現象は続きそうだ。