ウクライナがEUとの連合協定中止
ウクライナは21日、欧州連合(EU)への統合に向けた一歩として自由貿易協定(FTA)の締結や政治・経済分野の関係強化を柱とする「連合協定」の締結を中止した。ウクライナ製品の締め出しや、天然ガス輸出停止などを示唆するロシアの圧力に屈した形だ。「外交的勝利」を収めたロシアは歓迎の意を表明した。
(モスクワ支局)
ロシアと「積極的な対話」へ
前首相釈放を拒否
ウクライナとEUの「連合協定」締結は、バルト三国の一つリトアニアで28日、29日に開催される東方パートナーシップ首脳会議で締結される予定だった。この首脳会議を1週間後に控えた21日、ウクライナのヤヌコビッチ大統領は「議会の反対によりティモシェンコ前首相(職権乱用で服役中)の国外療養は不可能となった」との声明を出した。
EUは、ティモシェンコ前首相の国外療養措置を「連合協定」締結の条件として提示していた。ヤヌコビッチ大統領は「われわれは民主主義国家として、法を順守しなければならない。議会が(国外療養を認める)法案を否決した以上、それに従わなければならない」と説明した上で、「しかし我々は欧州連合との統合に向けた道を進む。困難を恐れてはいない」と強調した。
この声明の直後、ウクライナのアザロフ首相は、EUとの「連合協定」締結に向けた準備作業を停止したことを発表。同時にロシアとの「積極的な対話」の再開を表明し、各省庁に対し「雇用の確保と経済基盤の強化のため」に、ロシアを中心とする独立国家共同体(CIS)諸国との貿易・技術協力などの拡大を指示した。
もっとも、ヤヌコビッチ大統領の“議会が前首相の国外療養に反対するので”というのは口実である。もちろん、前回の大統領選で決選投票を戦った政敵であるティモシェンコ前首相を野に放ちたくないのは理解できるが、それは主因ではない。欧州議会のブロク外交委員長はヤヌコビッチ大統領の声明が出る少し前に「ヤヌコビッチ大統領はロシアの圧力により、EUとの連合協定署名を翻意した」と語った。
ウクライナがEUとの統合の道を進み、EUとFTAを締結するならば、ロシアが主導する関税同盟(加盟国ロシア、ベラルーシ、カザフスタン)へのウクライナの加盟は不可能となる。ロシアは関税同盟をベースとした「ユーラシア経済連合」の発足を目指しているが、ウクライナ抜きではその価値も半減する。
さらに、ウクライナがEUとの統合を進め、北大西洋条約機構(NATO)に加盟することになれば、それはロシアにとって悪夢以外の何物でもない。
ロシアはウクライナにとって、輸出額の26%を占める最大の貿易相手であり、天然ガスなどのエネルギーの依存先だ。ロシアはウクライナに対し、ウクライナはEUとロシアのどちらかを選ばなくてはならないが、もしEUを選ぶならば、ロシア自らの経済的利益を守らざるを得なくなる――として、ウクライナの輸出品に対する「保護措置」の発動をほのめかし、さらに天然ガスの供給停止も示唆するなど圧力を加え続けた。一方で、関税同盟に加盟すれば天然ガス価格を半分にするとの飴も示してゆさぶりを掛けた。
EUもウクライナにとって重要な輸出先ではあるが、EU全体を合わせて輸出額の25%であり、ロシア一国とほぼ同じ程度だ。経済が低迷するウクライナにとって、ロシア市場からの締め出されるという代償はあまりにも大きい。
ヤヌコビッチ大統領は親露派ではあるが、これまでEUとの統合実現を目指して進んできた。そのウクライナにEUとの「連合協定」締結を断念させたロシアは大きな外交的勝利を収めた形であり、ウクライナの決定を歓迎する声明を発した。