曲がり角の仏原発産業

苦戦続く大手メーカー

 経営不振にあえぐフランスの原子力大手アレバは最近、大規模な人員削減を行うことを発表した。一方、同社が設計し、フランス電力公社(EDF)が英国に建設予定の欧州加圧水型原子炉(EPR)2基の受注というプラスのニュースもある。また、フランス政府は世界の原発大国の一角をなす日本の関与にも期待を寄せている。(パリ・安部雅信)

次世代型建設工事遅れ、政権の縮小路線が影響

中国メーカーの参入も追い打ち

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 20日付の仏日刊紙フィガロ電子版はアレバ経営陣が、仏国内で2017年までに2700人の人員削減を行うことを発表と報じた。同社は今回の人員削減で10億ユーロ程度のコスト削減と競争力強化を期待している。

 同社は、経営不振を受け今年5月に国内外の人員削減計画を明らかにしており、今回の発表で具体的数字が示された形だ。今後、国外での削減も行っていく構えだ。労働総同盟(CGT)を除くアレバグループの従業員の75%が所属する4労組が、救済計画の枠組み内での雇用管理協定に合意している。

 アレバは14年に過去最大の48億ユーロ(約6400億円)の損失を計上し、赤字は3期連続だった。原因の一つは次世代原子炉と言われるEPRのフィンランドとフランスでの建設工事が大幅に遅れており、当初の建設見積額を大幅に上回っている問題がある。

 さらには11年3月の福島第1原発事故を受け、欧州委員会が指示したストレステストで工期がさらに遅れ、損失を出した。同時に中国やロシアのプラントメーカーが参入し、世界の原発市場の競争が激化するとともに、同事故で市場が一時的に冷え込んだことも挙げられる。

 それに追い打ちを掛けるように、12年に発足したオランド現政権が、原発依存度を75%から50%に引き下げる公約を掲げ、縮原発の流れができた。全国の原発58基全てを保有・操業するEDFの最高経営責任者(CEO)のアンリ・プロギリオ氏が、大株主の政府の意向で昨年秋に解任された。

 フランス政府は昨年10月にエネルギー移行法を議会で可決し、再生可能エネルギーへの移行を加速させたい方針だ。そのため老朽化したフェッサンハイム原発など国内の20基以上の閉鎖の方針を打ち出し、反発したプロギリオCEOが更迭された形だ。今年に入り経営陣の入れ替えが行われる中、アレバは生き残りを懸けた戦いに直面している。

 一方、EDFが手掛ける英国南西部ヒンクリー・ポイント原発プロジェクトが、中国最大手の国営企業、中国広核集団(CGN)の60億ポンド(約1116億円)の投資とともに進められることになった。CGNは180億ポンド規模の同プロジェクトの33・5%の権益を取得、福島第1原発事故以来、欧州で初めての原発建設をアレバとCGNが担うことになった。

 さらにアレバが設計し、EDFが英東部サイズウェルに建設予定のEPR2基についても、CGNが20%を出資することが決まった。アレバとしては、現在、納期が大幅に遅れ、欠陥も見つかっているEPRを英国が発注したことに安堵(あんど)している。

 ただ、フランス企業主導とはいえ、英国内での原発建設計画に中国が巨額投資し、欧州初の中国製原子炉を英国の別の新設原発で導入させる動きを見せていることから、欧州市場もアレバにとっては安定した市場とは言えなくなっている。

 苦戦が続くアレバに対して、10月初旬に訪日したバルス仏首相は、日本政府に対して、アレバと新型原子炉で提携する三菱重工業の出資を求めた。同首相は「日本の原子力産業が、資本面でもフランスの原子力の再構築に参加してほしい」との要請を行った。しかし、英国の原発建設で中仏が協力関係に入ったことで日本企業は難しい選択を迫られている。

 原発ビジネスにとって最大市場と言われる中国に対して、アレバは英国での協力関係をテコに中国市場参入を加速化させたいところだ。フランス政府は今年9月に中国と使用済み核燃料の再処理工場建設で合意している。

 一方、フランス政府は、EDFとアレバの国営2社が、アレバの原子炉製造子会社の株式66%を保有する方向で調整に入っている。理由は政府支出を抑えながら、海外からの投資を取り込む狙いがあるからと言われている。三菱重工業は既に同案件で協議を始めているというが、中国が食指を伸ばしてくる可能性もある。

 さらにフランス・パリ郊外では今年12月、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催される。そこでは京都議定書以来になる新たな温暖化防止の国際的約束を採択することが期待されている。フランスは同会議のホスト国として、環境先進国であることを国際社会に示すことに注力している。

 理由の一つは、不人気のオランド大統領率いる左派政権がポイントを稼ぐ絶好の機会と捉えているからだ。CO2削減に大きく貢献するとされた原子力発電は、福島原発事故で信頼が大きく傷ついた。その信頼回復にはフランスの原子力産業が国内外で高い評価を受ける必要がある。アレバはそうした圧力にもさらされている。