“頭痛”続く英仏トンネル 移民殺到で両国が対策本腰

 英仏海峡を渡り英国への入国を目指す移民が、フランス北部カレーに殺到している問題で、英仏両国の内相は20日、協力して具体策に乗り出すことで合意した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も、カレーで劣悪な環境に置かれ、危険にさらされる移民らに懸念を示している。しかし、欧州に押し寄せる大量の移民への対応は、まったく先が見えていない。(パリ・安部雅信)

交通事故相次ぎ死者も

犯罪グループ摘発も課題

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7月29日、フランス北部コケルで、英仏トンネルにつながる道路上でトラック運転手と話す移民ら(AFP=時事)

 英国を目指す中東やアフリカからの移民が、仏北部カレーにある英仏海峡トンネルの入り口付近に殺到し、死傷者を出している問題で、カズヌーブ仏内相とメイ英内相は20日、協議を行い、総額3500万ユーロ規模の具体策を両国が実行する協定に調印した。

 両内相は協議当日、現場で監視カメラが捉えた移民たちが危険を顧みず、大型トラックに乗り込もうとする映像を見た後、協議に入った。協議では、移民たちから高額の手数料を取って密入国を手助けする人身売買グループへの対策も話し合われ、英仏海峡トンネルの仏英両サイドに合同指揮・管理センターを設置するなどの具体策で合意した。

 カズヌーブ内相は支援計画の発表に際し「人身売買を行う者は罰せられるべきだ。今回の協定は、仏英が共同で管理する国境は絶対に越えられないという強いメッセージだ」と語り、断固とした姿勢で取り組むことを強調した。

 一方、メイ内相は、解決に向けて英国が本腰を入れて対策に乗り出す意思を強調するとともに、カレーの状況は「世界的な移民問題の結果だ」との見方を示し、他の欧州諸国や移民の出身国も加えた一層広範な取り組みが必要という認識を示した。

 カレーには現在、アフリカや中東諸国などから集まった移民約3000人が、仕事が得やすく、英語圏でもある英国を目指すために集結している。

 彼らの多くは、政情不安定なアフリカ諸国や中東の紛争地域から逃れ、安全と経済的豊かさを求めて地中海を渡り、イタリアやギリシャ、マルタ、スペインに流れ着いた難民たちだ。UNHCRによれば、2015年上半期、地中海を渡って欧州にたどり着いた難民・移民の数は13万7000人に上り、その数は昨年同期比84%増に膨れ上がっている。

 今年4月には、地中海上で多数の遭難事故が起き、1308人の難民や移民が溺死したり、行方不明になったりした。これを受け、欧州連合(EU)は本格的対策に乗り出し、監視を強化し、遭難事故は現在、減少傾向にある。だが、海路での避難は、年の後半に増加する傾向があるため、犠牲者の増加が懸念されている。

 UNHCRは、地中海を渡ってイタリアやギリシャにたどり着いた人の3人に1人が難民として保護を必要としているシリア出身者としており、次に多い出身国はアフガニスタンやエリトリアなどとしている。EUは加盟国で難民受け入れ数を分担することで合意しているが、対応し切れる状態ではなく、受け入れに難色を示す加盟国もある。

 難民や移民の中で英語圏出身者は英国を目指す例が多い。英国は入国さえしてしまえば、人道的見地からも、強制送還される可能性が低く、職を得やすいからだ。そのため英国への入国を希望する移民や難民は欧州諸国内で最も多い。

 しかし、島国である英国はビザなしで入国できるシェンゲン協定には入っておらず、空路や英仏海峡トンネルを通過して入国審査にパスすることは、ほぼ無理とされている。そこでトンネルのフランス側入り口のあるカレー近郊に集結し、英国への物資輸送の大型トラックの荷台などにひそかに乗り込み、密入国を試みている。

 その数の多さで、トラックに乗り損なって、他の車にひかれるなどの事故が多発し、死者も出し、国際的批判も浴びている。そのため高いフェンスを作り、道路への侵入を防ぐ対策に乗り出しているが、それでも毎日、道路に侵入しているのが実情だ。

 計画では、国境監視員100人を増員し、フランスの警官1300人を配置するほか、監視カメラや赤外線カメラ、柵や投光機が増設される。英仏両サイドには合同指揮・管理センターを設置し、両国の警察が合同で任務に当たる。特に人身売買組織に対しては仏英両国の警察が合同捜査チームをつくり、取り締まりを強化する。

 先週は6人のアルバニア人と1人のフランス人の密売人が逮捕されたが、彼らは3カ月間で250人の移民をトラックで英国に送り込み、1人から平均8000ユーロを巻き上げ、約200万ユーロ(約2億8000万円)を稼いでいたとしている。これらの業者は事前に金を受け取っており、入国できたかどうかに責任も持っていない。

 また、英国側はカレーの空き地で劣悪な環境の中で寝泊まりしている3000人に、向こう2年間で1000万ユーロを拠出し、支援を行う。カレー以外に1000人規模の難民収容所を造るとしている。ただ、難民申請で時間がかかっており、許可申請の簡略化も課題となっている。

 現在でも毎日、100人から200人の移民が、国境を越えようとトラックへの乗り込みを試みており、7月には1カ月で2000回の国境突破の試みがあった。ただ、現在、カレーに待機する3000人の移民は、昨年来イタリアやギリシャから流入した難民・移民35万人の1%にも満たない数字で、欧州の移民問題の深刻さを示している。