ローマ法王、「ウサギ」で舌禍
避妊問題めぐる発言で批判に直面
世界12億人の信者たちの最高指導者、ローマ法王はペテロの後継者であり、その言動は信者たちの模範と受け取られている。南米教会出身のフランシスコ法王はその職務をこれまで無難に果たしてきたが、スリランカ、フィリピン訪問後の帰国途上の機内記者会見での発言が信者たちの心情を傷つけた、といった批判に直面している。フランシスコ法王の失言を紹介する。(ウィーン・小川 敏)
養兎業者からも苦情
子供が多い信者に配慮欠く
ローマ法王が海外訪問後、ローマへの帰国途上、機内で随伴記者団との会見をするのが慣例となってきたが、フランシスコ法王の失言はその機内記者会見で飛び出した。
フランシスコ法王は19日、機内記者会見で記者団から避妊問題で質問を受けた時、欧米諸国が開発途上国に避妊促進を求めていることについて、「外部から家族計画について干渉することはできない」と述べ、「思想の植民地化」と呼んで欧米諸国の姿勢を批判したまでは良かったが、避妊手段を禁止しているカトリック教義を擁護しながらも、「キリスト者はベルトコンベヤーで大量生産するように、子供を多く産む必要はない。カトリック信者はウサギ(飼いウサギ)のようになる必要はないのだ」と述べ、無責任に子供を産むことに警告を発したのだ。
発言内容は正論であり、問題はないが、法王が自説を説明するために「ウサギのように……」と述べた箇所が、子だくさんのカトリック信者たちの心情を傷つけることになったのだ。
多分、南米出身のローマ法王は冗談交じりに答えたのかもしれないが、「ウサギのように……」という発言内容が伝わると、教会内だけではなく、養兎(ようと)業者からも苦情が飛び出してきたのだ。
ドイツ通信(DPA)によると、ドイツの養兎業者中央組合のエルヴィン・レオヴスキー会長は、「全ての業者がウサギにどんどん子供を産ませているわけではない。それは野生の動物だけだ。養兎の場合、繁殖は規則正しい秩序を持って行われている」と弁明する一方、「法王のばかげた表現はむしろ避妊を認めることになる」と警告を発している。法王は養兎業者については何も言及していないが、業者関係者は、「自分の職業が批判された」と受け取ったのだろうか。
前ローマ法王べネディクト16世の場合、“口が滑る”といったことはなかったし、そもそも冗談を言うタイプではなかった。要点を明確に語るだけで面白みはなかったが、“口が滑る”といったスキャンダルは8年間余りの在位期間、無かった。
例外は、法王就任年の2005年9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し、「ムハンマドがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けたことだ。厳密に言えば、これは口が滑ったのではなく、法王の演説テキストに不都合な引用があっただけだ。学者法王らしいミステークだ。
それに対し、フランシスコ法王はプロトコルにこだわらない、気さくな法王のイメージがある。これが法王の人気の理由かもしれないが、今回のように口が滑るといった事態も生じるわけだ。
法王のために弁明すると、法王は「ウサギのように……」という発言をする前に、申し訳ないが、と断っている。だから、純粋に「口が滑った」というわけではない。多分、無責任に産み増やしてはならないと説明するために、不幸にもウサギを例に挙げただけだろう。他意はなかったはずだ。ちなみに、ウサギは一般的に多産のシンボルだ。
フランシスコ法王は気候の違う遠い国を訪問し、多くのストレスがあっただろう。ローマへの帰途に就いた機内でその疲れが出たのか、それとも気が緩んだのだろう。冗談の一つも言いたくなったか、それとも南米人特有のサービス精神が働いたのかもしれない。
なお、レオヴスキー会長は法王の発言に対し、「ばかげた表現」と批判した。法王に対し、“ばかげた”という言葉を使って批判した人物をこれまであまり知らない。同会長は法王の話によほど頭にきたのか、それとも“口が滑って”しまったのだろうか。「口は災いのもと」といった昔の賢人の言葉を思い出す。