仏国内のテロ懸念高まる

仏人の「イスラム国」参加増加

 欧州最大のイスラム社会を抱えるフランスから、シリアやイラクで勢力を拡大するイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の戦闘に加わる若者が増えている。戦闘には白人フランス人や未成年者も加わっており、戦闘訓練を受けた帰国組が仏国内でテロを実行する可能性も高まり、懸念が広がっている。(安倍雅信)

ネット駆使し若者勧誘

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オランド仏大統領は、米軍が行っている「イスラム国」に対する空爆に参加する意向を表明した。写真は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に際しての記者会見=5日、英南西部ニューポート(EPA=時事)

 フランス内務省は11日、イスラム国のシリアやイラクでの戦闘員候補者をリクルートしていた最も危険な勧誘者の一人をトルコで逮捕し、フランスに移送したことを明らかにした。

 当局によれば、トルコから身柄を移送されたムラット・ファルス容疑者(30)は、イスラム聖戦主義に傾倒したフランスの若者をシリアやイラクへ戦闘員として送り込むリクルーターだったとしている。同容疑者はソーシャル・ネットワークなどを駆使し、若者を勧誘していたという。

 2月にファルス容疑者は、イスラム聖戦主義のウェブサイトで、自分が運営するソーシャル・ネットワークは非常に効果的で、リラックスした自分の写真や動画をアップしていることで若者たちが集まってきたことを自慢していたことが確認されている。当局は若者の警戒心や恐怖心を取り除くことに成功していたと説明している。

 実はファルス容疑者がトルコで逮捕されたのを受け、フランス政府は数日後、仏国内からイラクなどに戦闘員として向かう仏国籍者の出国阻止および、戦闘地から帰国する人物を徹底的にマークし、国内テロを未然に防止するための法案審議を本格化している。

 5月24日、ベルギーの首都ブリュッセルのユダヤ博物館で4人が殺害される銃乱射事件が起き、アルジェリア系フランス人ネムシュ容疑者が逮捕された。9月4日付の仏日刊紙ルモンド電子版は、ネムシュ容疑者は、4月20日にシリアでの拘束から解放された4人の仏人ジャーナリストの人質監視役だったと報じた。

 さらにリベラシオン紙は9月8日、解放されたジャーナリストの証言として、監視役だった同容疑者から、7月14日のフランス革命記念日にパリ中心部でテロを計画している話を聞いたことを報じた。もしベルギーの銃撃事件で逮捕されていなかったら、パリで大規模なテロが実行されていた可能性もあるとして国民に恐怖が広がった。

 リベラシオン紙は、解放された記者らの証言から、ネムシュ容疑者が2012年3月にフランス兵士およびユダヤ人学校で銃撃事件を起こしたメラ容疑者に強い刺激を受けていた様子が伝えられた。メラ容疑者はパキスタンなどで戦闘訓練を受け、帰国後、単独でテロを実行し、警察との銃撃戦の上、殺害されている。

 今回、フランスに身柄を移されたファルス容疑者は、フランス人とモロッコ人の血を引くフランス人で、フランスで聖戦の戦闘員を募る主要なリクルーターの一人だった。5月にシリアから帰国後にストラスブールで逮捕された7人の若者、トゥールーズからトルコに行き、国境越えしてシリアに入った2人の未成年者、アビニョン出身の15歳の少女もファルス容疑者がリクルートしたとみられている。

 9月11日付の仏日刊紙リベラシオンは、8月中旬にテロ対策強化法案の審議で与党・社会党のピエトラサンタ議員が挙げた数字として、フランスでは現在、約950人のフランス人がシリアの反政府運動に関与し、約350人がシリア・イラクで戦闘に加わっており、150人が移動中、180人が帰国し、約220人が出国を待っているとしている。

 一方、カズヌーブ仏内相は8月13日、シリアおよびイラクでフランス国籍者が少なくとも50人死亡したと推定されると述べた。また同内相は今年に入っての数カ月間でシリアの戦闘に加わるフランス国籍者は59%増加し、900人を超えたと指摘している。

 これに対して8月初旬、非政府組織(NGO)のシリア人権監視団(SOHR)が7月に欧米からの流入者が急増し、その数は全体で6000人を超えたと指摘した。さらに中東専門家のリヨン大学のファビリス・バランシュ教授は、フランス国籍者はこれまでに2000人以上がシリアに入っている(仏日刊紙ルモンド8月22日付)と指摘している。

 フランス内務省は現在、新たな措置としては、期間を半年と限定しながらも、当局が把握している危険人物に対して、最終的に戦闘地域に向かう目的でフランス領土を離れることを禁じる方針を打ち出している。また、5月中旬から、シリア行きを計画する若者を持つ家族や友人らの相談を受け付ける無料電話相談窓口を開設している。

 一方、欧州連合(EU)レベルでも、欧州各加盟国の対治安対策機関が航空会社の乗客名簿のデータを可能な限り共有することや、EU域外からの出入りの監視強化、シリアからEUに入ってきた人物の行動のモニタリング、ユーロポールの情報分析の活用など対策に乗り出している。

 オランド仏大統領は今月18日、イスラム国に対し米軍が行っている空爆に参加する意向を表明した。既に偵察機の飛行を開始している。そのためフランス国内でのテロの可能性はさらに高まっている。特にシリアやイラクで戦闘経験を積んで帰国した若者が単独でテロを実行する恐れがあり、当局は警戒を強めている。