欧米脱退 相次いだUNIDO、7月12日に事務局長選
ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の広報部が5月12日発表したところによると、次期事務局長選に3人が立候補届を出した。来月12日から開催されるUNIDO理事会(理事国53カ国)第49会期で事務局長選の投票が実施される。3人の候補者の中でドイツ経済協力・開発相のゲルト・ミュラー氏が最有力候補と受け取られている。UNIDOでは欧米加盟国の脱退が続いてきただけに、欧州出身初のUNIDO事務局長の誕生に期待が寄せられている。
(ウィーン・小川 敏)
本命、独ミュラー氏に期待
中国一辺倒だった現職の李勇氏
ミュラー氏以外では南米ボリビア出身のUNIDOの幹部ベルナルド・カルザディラ・サルミエント氏とエチオピア首相府特別顧問兼上級閣僚のアルケべ・オクバイ氏の2人だ。UNIDO次期事務局長選は中国人の李勇事務局長(2013年6月就任)の2期任期満了を受けて実施される。
事務局長選の投票は7月12日から開催されるUNIDO理事会(理事国53カ国)第49会期で実施される。選出された新事務局長は11月29日から始まる第19回総会で全加盟国の承認を受ける。
3人の候補者の中でドイツのミュラー氏が本命であり、次期事務局長に最も近い。ミュラー開発相はドイツ与党「キリスト教社会同盟」(CSU)の所属でメルケル政権の全面的支援を受け、次期事務局長の最有力候補として急浮上してきた。ミュラー開発相は既に今年9月に実施される連邦議会選(下院)では議席を求めず、2013年以来務めてきた経済協力・開発相を辞任する旨を明らかにしている。ミュラー氏は開発相の前は8年余り、連邦農業省次官だった。1994年以来、連邦議会議員だ。
同相は開発途上国への支援活動に専念し、ドイツの政治家の中では国民の信頼も厚い。開発途上国の経済発展に貢献したいという熱意を持っている政治家として知られている。活動舞台をドイツから国連に移し、開発途上国の工業開発を支援したいというわけだ。
UNIDOは1986年、開発途上国の工業発展と経済設備の支援などを推進する国連専門機関として発足したが、これまで欧米諸国の主要国が次々と脱退して行った。カナダが1993年、その3年後には最大の分担金を払う米国が脱退、未払いの分担金もこれまで払っていない。これまで脱退した国は、カナダ、米国、英国、フランス、ポルトガル、ニュージーランド、オランダ、オーストラリアなどだ。脱退を検討している加盟国も少なくない。すなわち、世界の工業開発の先頭を走る主要先進国がUNIDOから出て行ったわけだ。現在の加盟国数170カ国。
残念ながら、UNIDOは“価値なき国連機関”と受け取られてきた。米国が脱退してからは、世界のメディアもUNIDOの動向は報道しなくなった。UNIDOで記事となるのは、その腐敗と不正問題だけだ、と言われるほどだ。
欧米諸国の脱退ドミノ現象の中で、日本とドイツ両国はUNIDOに留まり続けてきた。一時期、ドイツ脱退の噂が流れた時、「ドイツが出ていけば、UNIDOは終わりだ」という悲鳴にも近い声が聞かれた。
李勇事務局長(元中国財務次官)は中国人初の事務局長としてUNIDOに乗り込んできたが、2期目に入ると「中国の、中国による、中国のための活動」に没頭してきた。中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)を支援し、同社の広報官のような活動に邁進。2018年4月、中国メディアとのインタビューでは、「UNIDOは中国共産党と連携し、習近平国家主席が提唱した『一帯一路』プロジェクトを推進させてきた」と強調している。なお、李勇事務局長は任期8年間で中国から多数の人材をコンサルタントという名義でUNIDOに雇い入れている。その中には経済スパイの任務を担った人間がいる。
ミュラー氏がUNIDO事務局長に選出されれば、欧州初の事務局長だ。新事務局長はUNIDOの活動に失望して脱退した欧米主要国の復帰を働き掛けるだろう。ドイツのメディアもミュラー氏の活動を報じるようになれば、UNIDOは再活性化するかもしれない。ポスト李勇事務局長時代に期待したい。