全土へのテロ飛び火を警戒 中国習近平政権

課題山積の3中総会

 中国北京市の天安門前での車突入・炎上事件に続き、6日には山西省の共産党委員会建物前で連続爆発事件が発生し、党の政治中枢を狙うテロに厳戒体制を敷く中国当局に危機感が高まっている。9日に開会した中国共産党の重要会議・第18期中央委員会第3回総会(3中総会)では習近平体制が進める「政左経右」路線(改革は経済だけにとどめて政治は引き締め)では国民に渦巻く不満を高圧的に弾圧することが限界に来ており、党内の抜本的な改革が求められている。

(香港・深川耕治)

強圧に限界、体制に動揺も

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連続爆発が起きた中国山西省太原市の同省共産党委員会の建物前とみられる画像。煙が立ち上っているのが見える(中国版ツイッター「微博」より)(時事)

 今回の二つの事件で共通するのは、少数民族に限らず、政府の「上」からの弾圧に対して国民全体に渦巻く不満だ。

 北京中心部の天安門前で先月28日正午ごろに起きた車両突入炎上事件は実行犯3人がウイグル族家族と特定され、共犯5人も拘束された。習近平指導部でテロ対策を統括する孟建柱共産党中央政法委員会書記は、同事件の背後にウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)の指示があったと公表したが、中国公安当局の発表内容には犯人の動機や目的、犯罪物証となる部分に疑問点も多い。

 実行犯3人と共犯5人との接点も不透明なままで、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で2009年7月に発生したウイグル族と漢族の大規模騒乱をめぐり「家族を警官に銃殺された報復」として事件を起こした可能性も浮上している。

 むしろ、中国政府は犯人グループが国際テロ組織であると烙印(らくいん)を押すことで国際社会を味方に付け、ウイグル独立派弾圧を正当化する政治宣伝工作ではないかとの見方が米CNNをはじめとする欧米メディアの見方となっている。

 天安門前での車両突入事件は犯人を特定し、中国公安当局のメンツは最低限、保たれたが、6日の太原市の共産党委員会庁舎前での連続爆破事件は、再発防止を守れなかったばかりか、拘束された犯人が社会への報復を動機にした点で完全に公安当局はメンツを失った形だ。

 太原市警察当局は既に現場付近に設置していた高感度監視カメラの映像を分析し、6日午前に開いた緊急会議で容疑者の爆弾設置の動きと車を特定。地元公安当局は8日午前2時、太原市杏花嶺区に住む豊志均容疑者(41)を拘束した。豊容疑者は容疑を認めているが、動機や事件の背景は不明のままだ。

 豊容疑者の自宅からは手製の爆発物や逃走用に使った車も押収された。1989年11月、窃盗罪で太原市北城区人民法院(地裁)で懲役9年の実刑判決を受けた前科があり、自宅は爆発現場に近い市街地に位置している。今回の爆発事件については社会へ報復するために意図的に行ったと供述。公安当局は9日から始まる3中総会の直前までに容疑者拘束による幕引きを急いでいた。

 同事件は人通りの多い朝の通勤ラッシュ時間帯を狙って連続爆発させた計画的な犯行との見方が濃厚だ。背景はまだ不明だが、山西省は貧富の格差が最も大きい省市の一つで石炭掘削をめぐる経営者の不正土地収用や環境汚染問題、子供の人身売買問題などで抵抗する住民側と、それを高圧的に封じ込めようとする地方政府の間で暴動やトラブルが多発している。国内矛盾の連鎖が、国民の怒りを増幅させ、極端な暴発に至らせているのが実情だ。

 中国内では年間18万件を超える暴動や住民の抗議行動が勃発し、地方政府庁舎前に集まって解決を要求し、公安当局は武装警官を使って封じ込める構図が日常茶飯事となっている。

 5日、習近平総書記(中央軍事委主席)は国防科学技術大学を視察し、「党のために軍の特色ある世界一流の大学建設を目指せ」と檄(げき)を飛ばし、富国強兵のスローガンである「中国の夢」実現のために軍の人材育成に力を注ぐことを強調した。

 太原での連続爆発事件はその翌日に発生し、習指導部にとっては、「中国の夢」どころか地方都市の党政治中枢部の治安すら守れない危機感に直面している。

 党の改革指針を打ち出す3中総会は9日から12日まで北京市内で開催中だ。「改革の全面深化」が主要議題となっており、今後5~10年の改革方針を打ち出すため、習総書記は「総合的な改革案を明示する」と表明。土地制度や国有企業改革、行政管理、金融システム、環境問題、司法改革などを推し進め、中国メディアも歴代の3中総会の中で「歴史的会議になる」と鳴り物入りで喧伝(けんでん)している。

 だが、急速な経済発展の中で国内政治では強権的な党内体制の引き締めへの強い不満が暴動やテロの多発で臨界点に達しており、今回の二つの事件をきっかけに時限爆弾を使った抗議が政権への“憎悪の連鎖”として全国に飛び火することを最も恐れているのが中国政府であり、改革を声高に強調するのは習指導部の強い危機感の表れでもある。

 4日付の北京紙「新京報」社説では中国国営新華社通信の記事を引用して「公平正義を改革の最大公約数にせよ」と論じ、8日付の北京紙「京華時報」社説も「民生を元とする改革に徹せよ」と表向きは3中総会への期待と注文を示す。

 しかし、昨年11月、李克強首相は「内需拡大の最大潜在力は都市化にあるが、改革はその既得権益の打破にある」と強調する一方、「最大の難関は既得権益層である腐敗官僚や関連企業、不動産業、資源開発業者などのあぶり出しだ」(汪玉凱国家行政学院教授)との指摘もあり、党内実力者とつながりを持つ岩盤のように固い既得権益集団の一掃は国家発展改革委員会の改革方針次第との見方も根強い。民衆の憤怒が渦巻く中で、習指導部の真の改革手腕が問われる3中総会となっている。