中国の南シナ海での埋め立て アキノ比大統領が強い危機感
米軍との大規模演習で牽制
「行動規範」の策定提唱へ
複数の国が領有権を主張する南シナ海で、中国が大規模な埋め立て工事を行い、滑走路などの軍事施設を建設する動きを加速させており、フィリピン政府が強い懸念を表明している。フィリピン政府は、米軍と合同軍事演習を実施するなどして、中国への牽制(けんせい)を強めているが、中国艦船による漁船などへの妨害行為が多発するなど、緊張状態は高まるばかりとなっている。アキノ大統領は、近く開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で、中国の行動に歯止めを掛ける「南シナ海行動規範」の策定を呼び掛ける方針だ。(マニラ・福島純一)
国軍のカタパン参謀総長は20日、南シナ海で中国が行っている埋め立て行為を強く批判し、直ちに軍事施設とみられる建造物の建設を停止するよう求めた。カタパン参謀総長は埋め立てが行われている8カ所の写真を公開し、「埋め立てはわれわれの防衛を脅かしている」「それは非常に早いペースで行われている」と強い懸念を表明した。さらにアキノ大統領も、中国の埋め立てにより、国際航路や漁場へのアクセスが阻害される可能性を指摘し、「ほかの国々も脅威として認識すべきだ」と国際社会に警鐘を鳴らした。
一方、中国政府は、アキノ大統領の主張を「根拠が無い」と指摘し、埋め立てはあくまでも「中国の国内問題」であるとの姿勢を崩していない。このまま埋め立てが継続されれば、周辺諸国との緊張が高まるのは必至の情勢だ。
埋め立てによる深刻な自然破壊も懸念されている。フィリピン大学の海洋学者によると、中国による埋め立ては、3月の時点で300㌶以上に及んでおり、サンゴ礁が破壊されるなどして、海域の生態系に深刻な影響を与えると警告。年間の損失を約1億㌦と算出した。また水産資源局は、中国による埋め立て工事や漁船への妨害行為によって、1万2000人の漁師に影響が及んでいると指摘している。
さらに南シナ海では、中国艦船によるフィリピン漁船や国軍機への妨害行為が相次いでおり、両国の摩擦に拍車を掛けている。このほど沿岸警備隊が明らかにしたところによると、9日にスカボロー礁で、中国艦船が漁をしていたフィリピン漁船に放水銃を使用し、漁師1人が負傷した。また国軍関係者によると、19日に南沙諸島の上空をパトロール飛行していた空軍機が、中国艦船から強い光を照射、もしくは照明弾のようなものを発射されたことが明らかになっている。埋め立てが進むとともに威嚇行為が活発化し、両国の対立を先鋭化させている印象だ。
中国に対抗するため、国軍と沿岸警備隊は、船舶や航空機などの増強を急いでいるが、依然として中国との差は歴然としており、米国などの同盟関係に期待するしかないのが現状だ。
20日からフィリピン国軍と米軍による大規模な合同軍事演習「バリカタン」が開始され、過去最大規模となる約6000人の米軍兵士と約5000人のフィリピンの国軍兵士が参加。昨年の5500人から大幅な拡大となっており、島への上陸訓練を行うなど、演習内容は中国との領有権問題を強く意識したものとなっている。この演習では、オーストラリア軍や日本の自衛隊もオブザーバーとして視察を行うなど同盟関係を強調。中国を強く牽制する内容となった。
アキノ大統領は、このような危機的状況を受け、26日からマレーシアで開催されるASEAN首脳会議で、法的な拘束力を持つ「南シナ海行動規範」の策定に向け、改めて関係各国に協力を求める構えだ。しかし首脳会議では、貿易や投資などの経済分野に重点が置かれるとの見方も出ており、行動規範の策定に向け各国の足並みがそろうかどうかは未知数。マレーシアはASEAN諸国の中で、最も中国との貿易が活発な国であり、中国を刺激しない方向で会議が進む可能性も大きい。中国は領有権問題に関して、一貫して二国間協議を主張しており、行動規範の策定には反対姿勢を鮮明にしている。
アキノ大統領は、行動規範の策定をASEAN諸国に呼び掛ける一方、各国と個別の戦略的パートナーシップ構築にも力を入れている。ASEAN首脳会議でアキノ大統領は、ベトナムのズン首相と首脳会談を行う予定となっており、南シナ海の領有権問題をめぐり、両国の連携強化について話し合いが行われる見通し。また6月には国賓として日本を訪問する予定で、安倍晋三首相との首脳会談のほか、国会での演説する見通しとなっており、パートナーシップの強化が期待されている。