民主化へ舵を切ったミャンマー、問われる「期待感の管理」
日英グローバルセミナー開く
東南アジアの最後のフロンティアと言われるミャンマーが、半世紀に及んだ軍政から民主化に向け大きく舵(かじ)を切っている。その民主化に日英は何ができるのか。民主化が頓挫しない条件とは何かなどをテーマに3日、日本財団と英国国立国際問題研究所共催による「日英グローバルセミナー」のシンポジウムが衆院第1議員会館会議室で開催された。(池永達夫、写真も)
来年の総選挙 NLDが第1党に
同シンポでウ・タント元国連事務総長の孫であるタンミンウー・ヤンゴン・ヘリテージ・トラスト会長は「ミャンマーの政治的変化は、タン・シュエ将軍が引退したことで、権力の真空状態が生じた。それで新たな独裁が発生しないように政治が動いたことが大きい」と解説した上で「ミャンマー政府が選択している現在の制度は、自由化と権力の管理というハイブリッド型制度だ。規制撤廃による自由化も民主主義も目標ではあるが、15年、20年かけて達成すべき課題だという認識だ」と指摘した。
その民主化と自由化のスピード問題に関して、日本財団の笹川陽平会長は「遅いと批判する人々がいるが、むしろ私は早過ぎるのではないか」との見方を表明した。
一方、英国放送協会(BBC)東南アジア特派員のジョナサン・ヘッド氏は「改革のスピードは、軍がやりたいスピードでやっている」と述べた上で「大きく膨らむ期待感の管理こそが重要になる」と問題提起した。
これに対し英ジョージタウン大学のデービッド・スタインバーグ教授は「対中封じ込めで米は重要な働きをした」と評価し「オバマ米大統領は2009年春、ミャンマー政府に政治犯を釈放し、検閲をなくして人権を守れとシグナルを送ったが、それこそが外交上唯一の成功だった」と強調した。
なおジョナサン氏が懸念する「期待感の管理」というのは、11年のヒラリー・クリントン米国務長官(当時)だけでなく、12年にオバマ大統領がミャンマー訪問を果たし、ミャンマー人は時代の大きな変化の波を感じることになるが、「期待が高まり過ぎると、クラッシュも起きやすくなる」というものだ。具体的には来年の総選挙で国民民主連盟(NLD)が勝利しても、アウン・サン・スー・チー大統領が誕生することは現状では無理で、その失望感を破滅的な負の方向に走らせてはならず「期待感の管理」が問われることになるという。
またジョナサン氏は「ミャンマーのイメージが単純化されているが、メディアの責任が大きい。現実は複雑で、ミャンマーは現在、ASEAN(東南アジア諸国連合)の一部になろうとしており、どれだけのチャンスと希望が生まれたか計り知れない。ただガバナンスの課題は依然、残っている」と指摘した。
さらに、来年の総選挙に関してタンミンウー氏は「NLDが最大の議会勢力になるだろう。民族グループが約25%。さらに憲法の規定通り25%が国軍最高司令官の指名する軍人議員が就任する」との政治地図の展望を語った。
その上でタンミンウー氏は「テイン・セイン大統領の任期は16年3月までだが、USDP(連邦団結発展党)がある程度の議席数を確保し、議会第1党となるNLDと妥協点を見つけられるかどうかが最大の焦点となる」と課題を指摘した。
いずれにしてもミャンマーは半世紀に及んだ国際的孤立からの脱却へ動きだしている。
「経済システムや法整備面でも基本的な制度的弱さがある」(タンミンウー氏)のは事実だが、ルビコン川を渡ったミャンマーが「(軍事政権時代の)元に戻ることはない」(ジョナサン・ヘッド氏)というのは同シンポで共有された認識だった。
なお来年の総選挙を前に最大の課題となっている18にも及ぶ武装少数民族との和平交渉に関し、ミャンマー少数民族福祉向上大使でもある笹川氏は「武装少数民族との全面停戦に持ち込む和平交渉は95%、煮詰まっている。これを今年中に終わらせることが大きな仕事であり、停戦協議をグラスルーツから支える役割が日本にはある」と総括した。