攻撃目標は中国系施設、マニラ空港で爆発物騒ぎ

反中国意識の高まり反映

 このほどマニラ国際空港の敷地内で、爆発物を積んだ車両が発見され3人の男が逮捕された。中国関係の施設を狙ったとみられる今回の事件は、国家捜査局(NBI)が事前に情報をつかみ未然に防ぐことができたが、フィリピン国内で反中国意識が強まっている実態も浮き彫りとなった。(マニラ・福島純一)

南シナ海の領有権問題 政府の弱腰対応に不満

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2日、マニラで記者会見するフィリピンのデリマ法相(右)と捜査当局者(AFP=時事)

 9月1日午前1時45分ごろ、マニラ国際空港、第3ターミナルの駐車場で、NBIの捜査官が複数の爆発物を積んだ車両を発見し容疑者3人を逮捕した。当時、容疑者たちは車内で爆発物を組み立てていた。NBIによると約1カ月前から爆発物による攻撃の情報があり、警戒を強めていたという。

 容疑者から押収した犯行声明などから、犯行の動機は、南シナ海の領有権問題をめぐる中国への反発や、弱腰な対応しかできないフィリピン政府への抗議の意味があることが分かった。攻撃目標は、首都圏にある商業施設のSMモールオブアジアや中国大使館を含む、中国系で運営される施設だったことも判明。

 逮捕された容疑者の一人は、空港施設は攻撃目標ではなかったと証言しており、商業施設に関しても、市民を巻き込まないよう、閉鎖したトイレに爆発物を仕掛けるつもりだったと説明。無差別テロではなく、注目を集めることが目的だったとみられている。押収された爆発物は、ガソリンが入った小さいペットボトルに、正月のお祝いで使われる大型の爆竹花火を括(くく)り付けた簡単なもので、爆弾と言えるようなものではなかった。

 逮捕された3人の容疑者は「USAFFE」と呼ばれる親米右翼団体のメンバーで、NBIは3日、その団体の指導者であるエリー・パマトン弁護士を逮捕し事情聴取を行ったが、5日には保釈金を支払い既に釈放されている。現地の報道によると同弁護士は、ミンダナオ島の共産ゲリラに対抗する目的でUSAFFEを設立。2004年には大統領選への出馬を試みたが、選挙委員会に泡沫(ほうまつ)候補と判断され、その腹いせにマニラ首都圏の幹線道路に大量の「まきびし」をばらまいて100台以上の車両のタイヤをパンクさせた疑いが持たれ「スパイクボーイ」のあだ名で呼ばれるなど、奇行で知られる人物でもあり、今回の逮捕は「まきびし事件」の逮捕状を使ったものだった。

 今回の爆発物事件をめぐっては、さまざまな見解が交錯した。国軍参謀総長は、「これはテロ活動ではなく、世間の注目を集めるためのただのイタズラにすぎない」との見解を述べ、国軍も警戒を引き上げていないと説明。政府の不安定化を狙ったようなものではないと強調し冷静な対応を求めた。

 一方、トリリャネス上院議員は、マカティ市長時代の市庁舎建設をめぐる汚職疑惑を追及されているビナイ副大統領の支持者が、国民の注目をそらすために爆弾事件を企てたと主張した。しかし、ビナイ氏の娘であるナンシー上院議員は、「それはトリリャネス上院議員が最も得意とすることだ」と反論。元国軍将校でクーデター未遂事件の首謀者でもあるトリリャネス氏を痛烈に皮肉った。

 大統領府は一連の捜査結果を受け、「深刻な懸念はない」との判断を示しながらも、今後も類似した計画が浮上する可能性もあることから、資金提供者など事件に関与した組織の全貌を解明するようNBIに命じた。また攻撃対象に含まれていた中国大使館は、安全に対する懸念を表明し、フィリピン政府に徹底的な調査と再発防止を求めた。フィリピン外務省は「われわれは紛争解決の手段として暴力は使用しない」と説明し、事件に政府が関与していないことを強調。近く正式に調査結果を説明する方針を示している。

 南シナ海における領有権問題は、中国の覇権主義の拡大により、さらに緊迫した状況を迎えている。中国は南沙諸島付近の海域で埋め立て工事を行い、新たな拠点を建造するなど、実効支配をさらに加速させ、フィリピンを含む周辺諸国を刺激し続けている。今後も中国のやり方に不満を持つ団体などが、抗議活動の一環として今回のような事件を再発させる可能性も、否定できない状況にある。政府には今後、国民を納得させる外交結果が求められよう。