香港民主派、普通選挙実施求め抗議行動

 香港の次期トップを選出する2017年の行政長官選に「普通選挙」を導入する制度改革をめぐり、民主派が長官になる可能性を強く懸念する中国政府は、親中派を巧妙に操って行政長官選から民主派を排除する選挙制度を練っている。民主派は反発し、「真の普通選挙」が実現されなければ金融ビジネス街の中環(セントラル)を占拠する街頭行動で抗議する計画を進めており、混乱と緊張が高まっている。(香港・深川耕治)

市民投票に70万人超参加

金融街占拠なら混乱必至

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香港民主派の行政長官選挙制度改革案を決める市民投票(22日)への参加を呼び掛けるデモ参加者=11日、香港(AFP=時事)

 香港が中国に返還されて7月1日で17周年を迎える。

 6月4日夜、香港の民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)が1989年の天安門事件犠牲者を追悼して中国の民主化を求める恒例のキャンドル大集会を開き、昨年より3万人多い18万人(警察発表は昨年比8割増の9万9500人)が参加したと発表。民主派は勢いづいている。

 支連会は4月26日、香港・九龍半島の繁華街・尖沙咀の雑居ビルに天安門事件の史料を展示する常設記念館「六四記念館」を正式開館し、中国本土の観光客や留学生たちがお忍びで足を運ぶ。支連会の李卓人主席は「退去圧力もあるが、天安門事件の真相を香港から発信することで反共民主のとりでを築き、香港の普通選挙実現で中国政治にも影響を与えたい」と話す。

 香港の政治にとって、今後、大きな影響を与えるのは完全普通選挙の実施時期と方法だ。

 民主派は真の完全普通選挙が実施されれば、中央政府の意向に左右される現行制度ではなく、少なくとも民意を反映する民主的な選挙制度が可能であることを訴えている。

 香港基本法(ミニ憲法)には行政長官と立法会議員は最終的には、全て普通選挙で選出されることが明記されており、2007年の全国人民代表大会(国会)で17年から普通選挙を実施することを中国政府も認めている。香港政府もそれに向けて選挙制度改革を最終調整している立場だ。

 ただ、普通選挙の実施方法にはさまざまな案が出されており、最終結論を出すタイムリミットが今年7月となっており、香港政府は民間から各案を集約してまとめた後、立法会に提出・通過させることになっている。

民主派の「中環占拠行動」は「真の普通選挙」が実現されない場合、金融街の中環を占拠する抗議行動を展開すると宣言。20日、次期行政長官選で直接投票による普通選挙制度の導入を求め、民間の市民投票(香港永住権を持つ18歳以上が対象)をネットで開始し、22日には15カ所の投票所を設けて実施。投票は、民主派が求めている普通選挙の三つの実施案と棄権の計4項目の中から一つを選ぶ方式で行い、最初の3日間で70万人以上が投票した。電子投票サイトが大規模なハッカー攻撃を受けたとして投票期限を29日夜まで延長し、少なくとも100万人以上の投票が見込まれている。

 投票結果の民意を香港政府が軽視し、「中環占拠」が実際に行われた場合、交通機関がストップして香港の国際金融センターとしての機能が麻痺(まひ)する恐れがあり、混乱は避けられない。

 これに対して強い警戒感を持っているのが中国政府と香港の親中・親政府派だ。

 普通選挙の実施方法について、中国政府案は立候補者を認定する指名委員会メンバーを親中派で固める制度に規制することで親中派候補以外は事実上、立候補できない選挙制度にして香港の民主派を封じ込めようとする動きを加速させている。

 10日、中国政府は突然、「香港特別行政区政府における『一国二制度』の実践」と題する初めての白書を発表し、「香港の高度な自治は固有の権利ではなく、あくまで中央政府の承認と委任に基づく」と中国が香港を管轄統治する包括的な権限を持っていて香港の民主主義に限度があることを示し、「香港の政治制度と香港基本法について一部で混乱あるいは偏った見方を抱く人がいる」と民主派の急進的な抗議行動計画を批判した。

 同白書の起草に1年以上前から参与している北京大学法学部の強世功教授(香港マカオ研究センター執行主任)は「一国二制度の港人治港(香港人が香港を治める)とは、愛国者が香港を治めることであり、法律に依拠される」と白書の核心を話し、「植民地支配時代の香港は文明的で中国大陸は野蛮だとする『(香港)本土主義』が香港で広がり、中国本土から香港を分離する政治的な動きが強まっている」(香港誌「亜洲週刊」)と危惧している。

 香港トップの梁振英行政長官は「違法な占拠行為は絶対に許可しない」と話し、黎棟国保安局長も「平和な集会も過激分子に乗っ取られれば暴徒化する。計画は違法行為であり、市民が参加すれば法的措置が問われる」と警告。

 7月1日、香港では返還記念式典や親中派の祝賀パレードが行われる一方、毎年恒例となった民主化団体・民間人権陣線による民主化デモが行われる。参加者数は例年の倍に当たる10万人を警察に申請し、「住民直接指名、職別選挙枠廃止を」をテーマに香港中心部の中環を行進する予定。中環占拠行動の発起人3人も演説し、非暴力抗争の訓練も行うため、香港警察は25日、1000人余を動員した予行演習を実施し、1日当日は4000人の警官を動員し、不測の非常事態に備えている。