10年ぶり政権交代濃厚に、インド総選挙まで1カ月

 有権者数の多さから「世界最大の民主選挙」と呼ばれるインド下院総選挙開始まで、あと1カ月となった。前回2009年の有権者数は約7億1400万人だったが、今回はさらに1億人ほど増え、有権者は約8億1400万人。下院議席定数545のうち、政府任命による2議席を除く543議席を選出する。与党・国民会議派と野党・インド人民党(BJP)の二大政党の攻防が過熱しているが勢いは野党にあり、10年ぶりの政権交代が濃厚となっている。(池永達夫)

勢いづく野党BJP

第三極に庶民党急浮上

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インド西部グジャラート州のモディ首相=2013年8月11日、インド南部ハイデラバード(AFP=時事)

 総選挙を占う前哨戦となった昨年12月の地方選では、野党の躍進ぶりが顕著だった。デリー首都圏ではBJPが全70議席のうち31議席を獲得。景気低迷や相次ぐ汚職問題を抱えて首都圏で15年にわたる長期政権を担ってきた国民会議派は議席数を選挙前の43から8に減らす大敗を喫した。4州でもデリー首都圏同様、BJPが躍進した。

 BJPはこうした趨勢の中で、経済改革派で西部グジャラート州のモディ州首相(63)を旗頭として首相候補に擁立し、10年ぶりの政権交代を狙う。

 争点は「経済再建」だ。

 成長鈍化が顕著となったインドの13年10~12月期の実質国内総生産(GDP)の成長率は前年同期比4・7%増にとどまり、7~9月期を0・1ポイント下回った。企業の設備投資動向を示す総固定資本形成はマイナス1・1%。主力の農業も降雨の影響などで3・6%と、4・6%だった前期を下回った。

 こうした足踏み状態のインド経済を右肩上がりに引き戻すべく、BJPのモディ氏はグジャラート州首相として道路や港湾、電力などインフラ整備に励み、米フォード・モーターやマルチ・スズキなど自動車産業を相次いで誘致した実績をテコに国政に乗り込む。

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演説するラフル・ガンジー氏=2012年1月21日、インド北部ウッタルプラデシュ州イラハバード郊外(AFP=時事)

 迎え撃つ国民会議派は3世代にわたり首相を輩出してきた名門ネール・ガンジー・ファミリーのプリンスであるラフル・ガンジー副総裁(43)が事実上の首相候補だ。ラフル氏の曽祖父はネール初代印首相、祖母はインディラ・ガンジー元首相、父はラジブ・ガンジー元首相だ。シン首相(81)は年初、総選挙後の勝敗にかかわらず首相を退くと明言。事実上、首相候補にガンジー氏を指名した格好だ。1991年の経済改革を牽引し、インドを新興国の一角に引き上げたシン首相の引退は、中国で言えば●(=登におおざと)小平の引退に等しい歴史の変化を画するとの印象がある。

 しかし、総選挙を直前に控えてもなお、ラフル氏を正式な首相候補として擁立できないところに、政治的失速状態にある国民会議派の窮状がよく表れている。総選挙で勝利できる見込みが薄い中、ラフル氏のキャリアに傷を付けたくないという周囲の遠謀が働いているのだ。シン首相は社会主義的桎梏状態の中にあったインドに自由経済の活力を注いだ立役者だったが、インド変革の政治的リーダーとしての地歩を国民会議派に継承させることは難しい情勢だ。

 地元メディアが発表した世論調査では、ラフル氏の支持率18%に対しモディ氏が57%と野党の支持率が圧倒している。

 なお総選挙で第三極として急浮上しているのが、腐敗一掃を掲げる新党「庶民党」だ。

 庶民党は、選挙初挑戦だった昨年12月の首都圏議会選挙(定数70)で、いきなり28議席を獲得。BJPに次ぐ第2党の政治基盤を獲得した。さらに惨敗した国民会議派の協力を得て、庶民党のアルビンド・ケジリワル党首(45)がデリー首都圏首相に就任した。既成政党が強い政治的バリアを張り巡らせているインドで、結党から約1年の新党が政権を担うのは地方レベルでも異例のことだ。このままの勢いを保てば、庶民党は来月の総選挙で、第三極として台風の目になる可能性がある。