北方領土問題 地道な取り組みで現状打開を
きょう35回目の「北方領土の日」
ウクライナ問題で停滞
2月7日のきょう、35回目の北方領土の日を迎えた。1855年2月7日、日本とロシアの間で日魯通好条約が調印され、択捉(えとろふ)島とウルップ島の間に国境が画定されたこの日、各地で北方四島(択捉島、国後(くなしり)島、色丹(しこたん)島、歯舞(はぼまい)群島)の返還要求運動が行われる。昨年は、2月にロシアで行われた日露首脳会談をきっかけに北方領土問題の解決に向けた交渉が前進するかと思われたが、ウクライナ問題が深刻化する中で、停滞を余儀なくされた。一方、国内では昨年12月の衆院選で自民党が勝利。安倍晋三首相による長期政権樹立が現実味を帯びてきたことで、ロシアとの腰を据えた領土交渉ができる状況が整ってきた。戦後70周年の節目となる今年、長年の懸案である北方領土問題解決に向けて進展が期待される。
(山崎洋介)
昨年2月7日、安倍首相は都内で開かれた「北方領土返還要求全国大会」に出席後、ロシアに向かいソチ冬季五輪の開会式に出席した。第2次安倍政権発足から5回目となった翌日の首脳会談で、安倍首相はプーチン大統領のことを「ウラジーミル」とファーストネームで呼ぶなど親密ぶりをアピール。プーチン大統領は、ウクライナ問題などの影響で他の主要国の首脳が相次いで欠席を決める中、安倍首相が開会式に出席したことに対し、「大変重視している」と評価。同大統領の秋の訪日が合意され、北方領土交渉の進展に向けて期待が高まった。
しかし、7月の乗員乗客298人が犠牲となったマレーシア機撃墜事件をきっかけにそれまで対露制裁に及び腰だった欧州諸国も態度を硬化。日本は、ロシアに強硬な姿勢をとる欧米各国と足並みをそろえ、追加制裁にも踏み切った。こうした状況の中で、プーチン大統領の訪日も見送りとなった。
交渉が停滞する中、ロシアは、8月に択捉島、国後島を含む極東での軍事演習を強行。北方領土のインフラ整備を進めるなど、実効支配をさらに強化する動きも続けられており、9月にイワノフ大統領府長官が新空港を視察するため択捉島を訪問する事態となった。
今年1月に、岸田文雄外相が訪問先のベルギーで、ウクライナ問題と同様に、「北方領土も力による現状変更だ」と発言すると、ロシアはこれに反発。「軍国主義の日本こそ、多くの国々を占領した。歴史を逆さまに捉えるものだ」との声明を発表した。
しかし、北方四島は、第2次大戦以前までは一度も他国の領土となったことがない日本固有の領土だ。1945年8月9日に日ソ中立条約を一方的に破棄して対日参戦したソ連は、日本がポツダム宣言を受諾した後も攻撃を続け、8月28日から9月5日までの間に北方四島を不法占拠して、現在に至っている。これを正当化するようなロシア側の主張は受け入れることができない。
依然として、両国の議論は平行線をたどっているが、中国の進出に危機感を抱く点は共通している。近年、極東地域のロシア人の人口は減り続ける一方、中国からの移民が増加。このままだと中国経済圏に巻き込まれかねないと、ロシアは警戒感を強めている。プーチン大統領は、日本の資金や技術によって東シベリアの開発促進を期待していると見られるが、日露間に平和条約が存在しないことが大きな障害だ。プーチン大統領には、中国、カザフスタン、アゼルバイジャンなど、国境を接する各国との領土問題を解決している実績があり、北方領土問題の解決に意欲的と思われる。
シベリアには、石油や天然ガスなどの豊富な資源が眠っている。北方四島の返還が確実に実現された上で、平和条約が締結されれば、日本としてもエネルギー供給源の多様化などの面でメリットがあるだろう。
安倍首相は、就任以来、北方領土問題の解決に強い意欲を見せている。しかし、老練なプーチン大統領との交渉となるため、相手のペースに巻き込まれないよう注意が必要だ。欧米諸国による経済制裁や原油価格の下落で、ロシアが経済的な苦境に陥り、外交的にも孤立を深める中、北方領土をちらつかせ、日本を「対露包囲網」から切り崩そうと揺さぶりをかけてくることもありうる。成果を焦るあまり安易な妥協に陥ってはいけない。
首脳同士の信頼関係を構築し、政治決断によって交渉の行き詰まりを打開することが期待されるが、その交渉力の裏づけとなるのは、経済力の強化、諸外国との関係の構築、国民世論の喚起などの地道な取り組みの積み重ねだ。日本は、中長期的な戦略を持ち、毅然(きぜん)とした姿勢で交渉に臨むことが大切だ。