きょう34回目の「北方領土の日」、安倍外交で仕切り直しを

 2月7日のきょう34回目の北方領土の日を迎えた。北方四島(択捉(えとろふ)島、国後(くなしり)島、色丹(しこたん)島、歯舞(はぼまい)群島)の返還問題という日露関係の最大懸案を象徴するこの日に安倍晋三首相はソチ冬季五輪開会式出席のためロシアを訪問中だ。オリンピック開催の場に両国首脳が並ぶことは、70年近く前の戦時の問題を解決して平和時の関係発展につなげていくべき時代を表しているといえよう。
(窪田伸雄)

日露関係着実に積み重ねよ

600 北方領土返還交渉、平和条約締結交渉は目立った進展もなく未完の課題として残っている。広大なロシアはほかにも領土問題、武力紛争、独立運動を抱えており、ソチ五輪を前にテロ事件も頻発した。片や極東は平穏であり、日本との関係が正常化に向かえばさらなる交流と発展の可能性がある。もとより領土問題は外交の最難題であり、安全保障に関わるだけに、解決には両国の信頼関係の構築と深化が大前提となる。

 このため、厳しい舵(かじ)取りが余儀なくされることは否めない。日露関係も他の外交問題と同様に民主党政権において後退を招いており、菅直人内閣を相手にロシア側は当時のメドベージェフ大統領はじめ複数の閣僚が国後島に入る前例のないパフォーマンスを繰り返した。

 かつては「法と正義による解決」(1993年東京宣言)で国境画定に向けた協議を行うとしていたロシア側は、おもむろに北方4島の領有を唱える「第2次世界大戦の結果」を主張するようになっており、1月31日に東京で開かれた外務次官級協議でも同様な主張がなされた。

 ソチでの安倍首相とプーチン大統領の会談は日露関係を仕切り直す第一歩だ。安倍首相は8日に行われる日露首脳会談について、「プーチン大統領との個人的な信頼関係を深め、平和条約の前進と日露関係全体の発展につなげたい」と、抱負を語った。これまで、「この問題の解決を次世代に委ねることは考えていない」(08年日露首脳会談)と日露双方が確認してきたことから、安定した政権同士による腰を据えた交渉に期待がかかる。

 北方領土返還交渉はソ連末期からロシアへの体制移行の時期に前進があり、ゴルバチョフソ連大統領およびエリツィン初代ロシア大統領の下で国境画定のための交渉の必要が認識され、同時にビザ無し交流が始まった。戦争で避難した島民らの墓参りも毎年継続して行われるようになっており、このような北方4島での両国の交流は拡大していくべきだろう。

 北方領土問題について2000年の期限をめどとした「法と正義による解決」を打ち出したエリツィン政権時代に交渉が未完に終わったのは、ロシアがチェチェン戦争、経済の大混乱、ソ連崩壊で超大国から後退した軍事・外交力への国民の不満による極右民族主義政党の台頭など政情不安定な状態に陥ったためだ。同年に後を継いだ1期目のプーチン政権では、ソ連外交を継承する立場から1956年日ソ共同宣言の歯舞・色丹返還を交渉の出発点とすることが確認された(01年、森喜朗首相とのイルクーツク声明)。

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色丹島の日本人墓地。碑名には古い村名の「斜古丹(しゃこたん)」を刻んでいる(北方対策本部提供)

 ロシアはプーチン政権1期目からメドベージェフ政権へと「双頭政治」で政治の安定を図り、ソチ五輪開催につなげる成果を生んだが、一方の我が国では長期不況を背景に短命内閣が続く不安定期を迎えた。これが「第2次世界大戦の結果」をロシア側が主張するまでの交渉の後退をもたらした。

 しかし、日ソにおける第2次世界大戦の結果とは、中立条約を破ったソ連の対日参戦と北方領土の不法占拠である。1945年8月9日、対日参戦したソ連軍は日本のポツダム宣言受諾と無条件降伏以後も侵攻を続け、同年9月5日までに北方4島を占拠した。

 サンフランシスコ講和条約で日本は明治時代以降に戦争で拡大した領土を放棄したが、北方四島は江戸時代に我が国の領土として幕府とロシアが認めた固有の領土だ。1855年(安政元年)の2月7日、日魯通好条約が下田で締結され、日本とロシアが最初に国境を定めたのが国後島とウルップ島の間であった。

 ゆえに、講和条約で放棄するとした千島列島はウルップ島以北の島々だ。もともとは下田での日露の通好条約締結時に決められなかった日本人とロシア人が混在したサハリン(樺太)の国境を画定したのが1875年(明治8年)樺太千島交換条約であるので、千島列島すべてが平和時の外交で日本領として決められたのであり、戦争で拡大した領土ではない。ソ連はサンフランシスコ講和条約に調印しなかったが、日本側はウルップ島以北の島々をも固有の領土として帰属を主張することもできよう。

 しかし、ソ連は崩壊して20年以上を経た。日露が問題解決に臨むにあたっては双方が受け入れ可能な落としどころを模索しながら、安倍首相が表明した「日露関係全体の発展」という双方とも国益が増大する視点からの交渉が必要となるだろう。