WHOトップ解剖、人命より政治的利益優先

WHOトップ解剖 テドロス氏とは何者か(上)

過去にコレラ流行を隠蔽

 新型コロナウイルスへの対応をめぐり、「中国寄り」との非難を浴びる世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長(55)。中国共産党の意向に配慮し、国際社会の対応を遅らせた責任はあまりにも重い。そもそもテドロス氏とはどのような人物なのか。母国エチオピアでの経歴などを見ていくと、中立的立場から人類の健康を守るWHOのトップに就くべき人物とは言い難い。(編集委員・早川俊行)

テドロス事務局長

1月30日、ジュネーブで記者会見し、中国を称賛する世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長(EPA時事)

 2017年5月のWHO年次総会。事務局長選挙で当選を果たしたのが、アフリカ連合(AU)や中国の後押しを受けたテドロス氏だった。だが、この時すでに、エチオピアで医療支援を行っていた国際援助団体からは、テドロス氏が世界の感染症対策の指揮を執ることに懸念の声が出ていた。

 テドロス氏は、地元の大学で学士号(生物学)を取った後、英ロンドン大で修士号(免疫学)、英ノッティンガム大で博士号(地域医療)を取得。2005~12年にエチオピア政府の保健相、12~16年に外相を務めている。

 テドロス氏が保健相を務めていた時期、奇妙なことが起きている。東アフリカ諸国ではたびたびコレラが流行したが、なぜかエチオピアだけはコレラ感染者がゼロだったのである。これは決してテドロス氏の尽力で感染を防いだからではない。

 エチオピアでは06年にコレラが流行するが、政府はコレラの症状である急性水様性下痢症(AWD)という病名を使い始めた。つまり、名称を変えることで、コレラ感染者は存在しないことにしたのである。

 翌年2月の英紙ガーディアンの報道によると、国連が行った検査でコレラの発生は科学的に確認されていた。だが、エチオピア政府は食品輸出や観光業に悪影響が及ぶことを恐れ、「コレラ流行の発表を拒否」(同紙)したのである。1年足らずの間に約6万人が感染し、700人近い死者が出ていたにもかかわらずだ。コレラが流行した別の年でも、政府の対応は同じだった。

 感染症対策で重要なのは、感染の危険性を人々に周知させ、予防措置を取らせることだ。だが、エチオピア政府がコレラ発生を事実上隠蔽(いんぺい)したことで、必要な対応が遅れ、感染を助長した可能性が高い。

 エチオピア政府内で名称変更を決定したのがテドロス氏かどうかは定かではない。だが、17年5月の米紙ワシントン・ポストは「変更はテドロス氏の保健相時代に起きている」と指摘しており、テドロス氏の関与があったことは間違いない。

 さらに、同紙によると、地元の医療従事者たちは、政府からコレラが発生したと言ってはならないと圧力を受けていたという。

 一連のエチオピア政府の対応は、新型コロナウイルスをめぐる現在の構図と酷似している。経済や国際的イメージへの悪影響を恐れる中国共産党と、中国への過剰な配慮を示すテドロス氏率いるWHOは、感染拡大の危険性を過小評価する情報を発信し続け、各国の予防措置を遅らせた。感染拡大に警鐘を鳴らした武漢市の李文亮医師らを中国共産党が弾圧して口封じをしたのも、医療従事者に圧力をかけたエチオピア政府の手口と全く同じだ。

 14年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した時、WHOは緊急事態を宣言するのに2カ月もかかり、結局1万1000人以上の死者を出した。宣言が遅れたのは、WHOが経済への悪影響を恐れるアフリカ諸国に配慮したからだと伝えられている。

 17年に事務局長に就任したテドロス氏には、WHOのこうした体質を改革することが求められていた。だが、人命よりも政治・経済的利益を優先し、情報操作や言論抑圧を行ってきたテドロス氏にそのような役割を期待するのは、最初から無理な話だったようだ。