羽生結弦選手きょうフリー演技、謙信を重ねて
軍神宿る「天と地と」、SP8位からの巻き返しを狙う
フィギュアスケート男子の羽生結弦選手(27)=ANA=がショートプログラム(SP)8位からの巻き返しを期し、10日のフリーで「天と地と」を舞う。海音寺潮五郎が上杉謙信らを描いた歴史小説を基にし、1969年に放送されたNHK大河ドラマのテーマ曲だ。
お披露目となった2020年12月の全日本選手権で、羽生選手は「上杉謙信公の戦いへの考え方には美学や、犠牲があることへの葛藤がある。最終的に出家し、悟りの境地までいった謙信公の価値観と(自身の考え方は)少し似ているのかな」と感じたという。
謙信を祭る山形県米沢市の上杉神社。宮司の大乗寺真二さん(64)は謙信について「優れた武将であり、文化人でもあった。茶道具を持っており、合戦の間に和歌を詠んだり琵琶を弾いていたりしたそうだ」と話す。戦に臨んだのは「領土を広げようという野心や私利私欲ではなく、困っている人のため。異彩を放つ人物だったと想像している」
私利私欲ではない-。この根底は、誰も決めたことがないクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑む羽生選手にも通じるものがあるかもしれない。「自分のためにというのももちろんあるけど、皆さんのためにもかなえてあげたい」と口にしている。羽生選手はこの曲の冒頭で4回転半を決めることを、昨季からイメージし続けてきた。
合戦で勝利を重ねた謙信は「軍神」の異名を持つ。大乗寺さんは羽生選手の演技を見て「軍神が乗り移っているような、怖いぐらいの表情だった」。謙信の魂が宿ったように感じたことがあった。
「羽生さんは無難に抑えるより、失敗を恐れずに挑戦することを望むのだろう。世界中を感動させてほしい」と大乗寺さん。絵馬に羽生選手を激励する言葉を記した参拝者と同様、悔いのないチャレンジを願っている。(時事)