理研など開発、車で運べる小型NMR装置


液体ヘリウムは不要、冷凍機で冷却し続けるだけで高性能

理研など開発、車で運べる小型NMR装置

理化学研究所の仲村高志専任技師が開発した小型の高性能な核磁気共鳴(NMR)装置(手で持っている筒状物体)。ドーナツ状の超伝導磁石(手前のガラス製真空容器内)を積み重ねて作製した=2021年12月15日、横浜市の理研・構造NMR技術研究ユニット

 理化学研究所は4日までに、車で運べる小型の高性能な核磁気共鳴(NMR)装置を開発したと発表した。NMR装置は物質の分子構造を調べることができ、化学物質の組成を特定したり、たんぱく質の立体構造を解析したりするのに使われる。

 強力な磁場を発生させるため、通常は極低温で電気抵抗がゼロになる超伝導の電磁石を液体ヘリウムで零下269度に冷却する。しかし、ヘリウムは世界的に供給が不足し、価格が高騰しているため、冷凍機で冷却し続けるだけで性能を発揮するよう工夫した。

 理研の仲村高志専任技師は「移動中はバッテリーで冷凍機を動かす必要があるが、車で約50キロ運ぶ実験を行い、性能が変わらないことを確認した」と話した。「現場で採取後、短時間で分解してしまう物質の解析などに需要があるのではないか」という。

 NMR装置のメーカーである日本電子の子会社「JEOL RESONANCE」(東京都昭島市)やアイシングループの「イムラ・ジャパン」(愛知県刈谷市)との共同研究で、実用化を目指している。

 NMR装置は、磁場に置かれた水素などの原子核に電波を当てると起きる共鳴現象を利用する。医療用の磁気共鳴画像装置(MRI)と同じ原理だが、磁場の分布をより均一にする必要がある。

 仲村さんらは、ドーナツ状の超伝導磁石(外径6センチ、内径2・8センチ、厚さ2センチ)を「ユーロピウムバリウム銅酸化物」で作り、6個積み重ねて筒状の小型磁石にした。一時的に別の大型装置で発生させた強い磁場(4・7テスラ)の中に入れ、冷凍機で零下223度程度まで冷却すると、筒状の磁石が磁化して同じ強さの磁場を持つようになる。調べたい試料は筒の内部に入れて測定するが、内部の磁場を補正して均一性を高める部品を組み合わせた。