被災地への支援に「ありがとう」を伝えたい


震災語り部の大学生・武山ひかるさん、故郷の東松島を走る

被災地への支援に「ありがとう」を伝えたい

トーチを手に走る聖火ランナーの武山ひかるさん(中央)=20日、宮城県東松島市(東京2020組織委員会提供・時事)

 東日本大震災の語り部グループで活動する大学3年の武山ひかるさん(20)が20日、東京五輪の聖火ランナーとして故郷の宮城県東松島市を走った。全国から寄せられたたくさんの支援を心に刻み、「ありがとうという気持ちを伝え、被災地に行ってみたいと思ってもらえたらうれしい」と聖火に思いを託した。

 武山さんは震災当時、小学4年生。家族と一時避難した高台の公園から、車で自宅に戻ろうとしたところを津波に流された。家族は全員無事だったが、自宅は全壊し、避難所や仮設住宅での生活が続いた。

 仮設住宅で活動していたボランティアや、被災地を気に掛けてくれた県外の人たちとの交流を通じ、「今度は自分が何かを返したい」と考えるようになり、高校1年の夏から10代学生の語り部グループ「TTT」に加わった。大学進学を機に群馬県伊勢崎市で1人暮らしを始めてからも、活動を続けてきた。

 新型コロナウイルスの影響で被災地でのガイドや出張講演などは制限されたが、伝承の歩みは止めなかった。初めて経験したオンラインでの語り部に、「1度の講演で1000人を超える人に話ができた」と手応えを感じている。

 この1年は震災に関する絵本の制作にも取り組んだ。TTTに誘ってくれた友人で、津波で両親を亡くした高橋さつきさん(21)をモデルにした物語。高橋さんに寄り添ってきた武山さん自ら筆を執り、子供でも分かりやすい絵と文で震災の教訓を伝えている。

 武山さんのスタート地点には、勇姿を写真に収める高橋さんの姿も。走り終えた武山さんは「すぐ近くにいてくれたので心強かった」と友人の応援に感謝し、「震災から10年での聖火リレーは、何かの巡り合わせのように感じた」と、かみしめるように語った。