山県亮太が力強く復活、苦難の2年を乗り越える


男子100m決勝、集中力を切らさず9秒95の日本新記録

山県亮太が力強く復活、苦難の2年を乗り越える

男子100㍍決勝、9秒95の日本新記録で優勝した山県亮太=6日、鳥取市のヤマタスポーツパーク陸上競技場(時事)

山県亮太が力強く復活、苦難の2年を乗り越える

男子100㍍決勝、9秒95の日本新記録で優勝した山県亮太(左端)=6日、鳥取市のヤマタスポーツパーク陸上競技場(時事)

 山県が男子100メートル決勝をトップで駆け抜けた瞬間の速報タイムは、日本記録に並ぶ9秒97。拍手とどよめきに包まれる中、右拳をぐっと握り締める。「公認であってくれ」。祈りながら待つこと約1分。9秒95の公式記録が表示されると、高々と左拳を突き上げた。

 「まさか0秒02も上がって、プレゼントをもらった気分。2倍うれしかった」。これまでは風に恵まれないレースが多かったが、公認ぎりぎりの追い風2・0メートル。2017、18年に10秒00を出し、あと一歩まで迫りながら届かなかった9秒台に突入して「長年の夢だったのでうれしかった」。大きな喜びをかみしめた。

 決勝は「世界の準決勝だと思って臨んだ」。多田と激しく競り合い、残り30メートルから少しずつ引き離した。「ラストまで集中力を切らさず、ペースを崩さない走りができたのが、好記録につながった」と自己分析した。

 過去2年は、苦難との闘いだった。19年は肺気胸や背中痛に苦しみ、オフシーズンには右足首の靱帯(じんたい)を断裂。昨年は右膝を痛め、9月から3カ月ほどは全く走らなかった。焦りや不安から寝付けない夜も。「もう競技を続けられないかもと思った」

 チームスタッフの支えを励みに、「ここで終わりたくない」と弱気な気持ちを振り払った。これまで指導者を付けてこなかったが、2月に母校の慶大で短距離を指導する高野大樹氏に初めてコーチを依頼。右股関節の使い方を地道に改善させるなどし、東京五輪イヤーに力強く復活を遂げた。

 五輪参加標準記録を突破し、3年ぶりに出場する日本選手権で3位以内に入れば3大会連続の五輪切符を手にする。「ベストを尽くして代表権を取りたい。勝負は五輪だと思っている」。視線は世界の舞台に向いている。

 山県 亮太(やまがた・りょうた)広島・修道高から慶大を経てセイコー所属。陸上男子100メートルで12年ロンドン、16年リオデジャネイロの両五輪で準決勝に進み、リオ五輪の400メートルリレーでは1走を務めて銀メダルを獲得した。17年の全日本実業団対抗選手権で10秒00(追い風0・2メートル)をマークし、18年ジャカルタ・アジア大会でも10秒00(追い風0・8メートル)で銅メダルを獲得。日本選手権は13、18年に制覇。177センチ、73キロ。28歳。広島県出身。