核保有で高まる崩壊の可能性

高 永喆

 北朝鮮が核を掴(つか)んで放棄しない理由は72年間、孫の代まで継承してきた長期政権を守るためである。ルーマニアのチャウシェスク、イランのフセイン、リビアのカダフィーの長期政権は核を持ってないから崩壊したと、北朝鮮は教訓にしている。

 しかし、その核が、むしろ北朝鮮の政権を崩壊を呼び込む恐れがあることを、北朝鮮の指導層は自覚しているだろうか。彼らはでたらめでも愚かでもないはずだ。

 現代戦は全面戦ではなく、限定的な局地戦とピンポイントの精密打撃が特徴だ。北朝鮮が万が一、対南攻撃に出た場合は金正恩も終わりという事実をよく知っているはずだ。だから大規模な攻撃には出ず、結局は国際社会の制裁と米国の圧力に頭を下げて譲歩する可能性が出て来る。

 トランプ大統領の過激な威嚇発言は外交、安保、情報の補佐陣のコンサルティングに基づいて計算された心理戦の一環であり、北朝鮮の特権層と社会に戦争への恐怖心と焦りを植え付けるための行動であろう。

 このような状況で北朝鮮が危険水位ぎりぎりの挑発に踏み切る場合、米国は第2の真珠湾攻撃、あるいは第2の9・11テロと受け止めて、軍事行動のチャンスだと考えるだろう。しかし、大規模な軍事行動よりも、ピンポイントの空爆や精密打撃で北朝鮮の指導部を除去する“斬首作戦”に優先順位を置いているはずだ。そして、米国の軍事行動に対する北朝鮮の反撃は難しいと考える。

 マティス米国防長官が先月言及した通り、ソウルに重大危機を及ばさない対北軍事行動の選択肢は存在する。それを可能にするのが情報大国アメリカの情報収集能力である。即ち、偵察衛星、U2偵察機、グロバルホーク無人機、グレーイーグル(暗殺用無人機)および通信傍受と人間による情報を綿密にクロスチェックしながら、北朝鮮の動きを24時間リアルタイムで監視している。

 米国が軍事行動の決定を下すかどうかは北朝鮮の出方次第である。北朝鮮が核保有にこだわる最大の理由が体制維持だが、核が逆に体制崩壊を招く可能性が高まっている。

 北朝鮮のエリート支配層が体制の安全を守るために、賢明な選択を行うことを期待したい。

(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授)