韓国で高まる核武装論

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北朝鮮の核開発に危機感

 最近、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルに必要不可欠な弾頭再突入実験に成功したと報道した。弾道ミサイルの弾頭が大気圏に再突入する時は3000度以上の高熱が発生する。高熱に耐える実験の成功可否は今のところ半分程度だと考える。もし成功したとすれば、米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発が近づいた証しである。

 年初からの核・ミサイル実験で明らかになったように、北朝鮮の核開発は着実に進んでいる。これに対し最近、韓国では核武装論が高まっている。核武装論を唱えるのは、主に与党や保守系団体である。メディアも、1月の核実験の翌日付『朝鮮日報』が「核保有、米国と真摯(しんし)に意見交換を」(日本語版)と題する社説を掲載し、核武装の必要性に言及。『東亜日報』も間接的な表現ながら、核保有の検討を進めるべきだと主張した。

 韓国で核保有に向けた世論が高まるのは北朝鮮が3回目の核実験を実施した2013年2月に遡(さかのぼ)る。当時は核保有の可否を国民投票に問うべきだとの意見があり、世論調査では64%が核保有に賛成した。

 1953年の朝鮮戦争休戦後、韓国は、米国の「核の傘」の下で北朝鮮との軍事バランスを維持していた。だが、北朝鮮が核開発を着実に進める中で、米国が朝鮮半島から撤退するようなことになれば、一気に勢力均衡は崩れ、韓国が北朝鮮に飲み込まれてしまう危険性を抱えている。こうした懸念は今も昔も変わりない。

 北朝鮮は「食糧難で貧しい国」というイメージがあるが、核・弾道ミサイルの開発やサイバーテロは先端技術分野である。北朝鮮のIT要員は韓国人や日本人に成り済ましホームページや書き込みで反日感情・反米感情・反政府感情を煽(あお)って日米韓の離間工作を繰り返している。

 さて、韓国の核武装論は「北朝鮮が核開発を続ける限り」との条件付きが望ましい。北朝鮮が核開発をやめれば韓国もやめるというスタンスである。

 核武装論にも一定の意義はある。それは抑止力だ。国際社会にとっては望ましいことではないが、韓国が核を持つことで、北朝鮮への歯止めとなる効果が期待できる。冷戦時代に「第三次世界大戦」の勃発(ぼっぱつ)を抑えられたのは、米ソ核兵器の「恐怖の均衡」によるところが大きい。韓国が核を持てば北朝鮮の核を無力化し、金正恩政権の権力基盤に大きな亀裂が生じるだろう。

 しかし、韓国の核に対して、米国だけでなく中国やロシア、日本など周辺国の理解を取り付けるのは難しい。また、韓国が核を持つことになれば、日本や台湾が追随する「核ドミノ」の危険性も生じる。

 核武装論そのものの効果もある。北朝鮮に大きな影響力を持つ中国に対し、北朝鮮の核廃棄に向けた働きかけを強めさせる効果だ。中国が韓国の核保有を阻止するため、北朝鮮により積極的な圧力を掛けるようにさせるのだ。

 独裁国家と対峙(たいじ)する韓国にとって、北朝鮮の核開発を中止させるための外交交渉カードとして前向きな効果が期待できるとすれば、そのような場合だろう。もちろん、そのための前提となるのは、日米両国とのより緊密な協力関係であり、韓国の外交力の向上だ。

(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授)