金正恩の独り歩き

今月12日、北朝鮮モランボン楽団の北京公演が急に取り消され、楽団全員が帰国した。
理由は明らかにされていないが、金正恩第1書記の「水素爆弾保有」発言が中国を刺激し、観覧を共産党の政治局員(閣僚)クラスから副部長(次官)クラスに格下げしたことに猛反発した可能性が高い。
さらに公演内容について、中国当局が『中国人民志願軍戦歌』の「中国人民よ、北朝鮮を助け米帝オオカミを打ち破ろう」という歌詞や金第1書記を称賛する歌を問題視したことに対し、北側が不満を示したためともみられる。
いずれにしても金第1書記ならではの「やりたい放題、言いたい放題」である。今回の公演取り消しで、せっかくの中朝融和ムードは壊れ、来年春の金正恩訪中も霧散する可能性がある。
金第1書記は今年、ロシアと中国の戦勝70周年記念式典にも出席しなかった。4年前に最高指導者となって以来、1回も海外に出掛けたことがない。グローバル時代を迎えた今日、時代に逆行する国際社会の“一匹狼(おおかみ)”といえる。
北朝鮮には粛清の恐れから直言するスタッフがいないようだ。2011年12月に最高指導者となった翌年、李英鎬総参謀長を粛清し、13年にはナンバー2の張成澤(叔父)を処刑した。軍隊経験も帝王学の研鑚(けんさん)もない英雄主義から生まれる権威主義が若い将軍に常識外と思わせる行為を繰り返させているのではないか。
今年は玄永哲・人民武力部長(国防相)を処刑、今まで100人を上回る党・軍幹部を粛清した。今後も軍隊経験の欠如によるコンプレックスから大掛かりな軍の粛清を行うだろうとの見方は依然消えない。ブレーキをかけられる参謀がいないことが最も懸念される。北朝鮮の未来にかかる暗雲だ。
(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授)





