日韓友好への道 「朝鮮通信使」の役割果たす

ASIA文化経済振興院理事長 姜 星財氏に聞く

 歴史・領土問題をはじめ難しい課題を抱えた日本と韓国。その両国を舞台に、四半世紀前から文化人、芸術家、経済人、そして青少年を中心にした民間交流に尽力する韓国人がいる。社団法人「ASIA文化経済振興院」(本部・ソウル)の姜星財(カン・ソンジェ)理事長だ。今はアジア全域に活動の幅を広げる同理事長に、民間交流の意義などについて聞いた。
(聞き手=森田清策)

文化と経済を繋ぎ力に
民間ノウハウ、アジアに生かす

長年、日韓の民間交流、そしてアジアの文化経済交流に取り組んでいますが、そのきっかけは。

姜 星財氏

 カン・ソンジェ 1960年、韓国・全羅道生まれ。90年、日本留学。94年、日韓文化センター会長、日韓ちんぐ会会長、2002年、釜山アジア大会広報委員、15年からASIA文化経済振興院理事長、17年から全羅南道広報大使を務める。「私の妻は日本人」など著書多数。

 文化は、世界を動かす原動力との信念でこれまでやってきました。このような信念を持ったのは1990年、日本に留学して、日本人女性と結婚したことで、日韓の問題について研究したからです。しかし最近は、文化だけでは不十分で、文化と経済が繋がらないと、力にはならないと思うようになりました。

 私も幸せ、あなたも幸せ、世界のみんなが協力して幸せになるのが文化なのに、なぜそうならないのか。“われわれの側”と“あなたたちの側”は違うというイメージを持って、分ける人が多い。一緒に歩めばいいのに、文化も政治も経済もすべて分けてしまうから、一つになれない。

 北朝鮮と対峙する韓国は「38度線が危ない」と言って、緊張しながら生活しています。その韓国の中では、人口5000万人の小さな国なのに、地域差別があります。出身地域によっては、先輩の力で出世が簡単にできる一方、その逆に、どんなに成績が良くても実力があっても差別される地域もあります。日本人や他の国の人には理解できないと思いますが、それが韓国社会の一番良くないところです。

 日本の中でも、民団(在日本大韓民国民団)と朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)が分かれ、民団の中でも全羅道と慶尚道が分かれています。それを知って、私はびっくりしました。もっと大きく見ると、日本と韓国はあまりにも仲が悪い。

 たまたま羽田空港で出会った女性と結婚しようと思っても、日本(相手)の親が大反対しました。「愛に国境はない」と言いますが、実際に結婚しようとしたら、大きな壁があります。

 だから、どうやったら韓国の地域差別はなくなるのか、世界が一つになることができるのか、を真剣に考えました。もちろん、私一人で解決できるものではありませんが、そこから日韓関係について研究しました。その結果、歴史の問題は置いておき、民間交流で仲良くすればいいのではないか、という結論に達したのです。

 私の恩師である金容雲(ヨンウン)先生(韓日文化交流会議第2期委員長)が私にこう語ったことがある。

 「君はこれから日韓友好のために仕事をしなさい。日韓関係は今は悪いが、いずれ太陽政策みたいに上手(うま)くいくよ」と。だから、私は、一人の「朝鮮通信使」の役割をしようと考えました。

慶長の役(1597~98年)で、藤堂高虎の軍に囚われ、日本抑留記『看羊録』を書いたことで知られる朝鮮王朝の儒学者、姜沆(カンハン)の末裔(まつえい)だそうですね。

 姜沆先生は27代前のご先祖です。日本の学者たちに、韓国について話を聞くと、日本人が尊敬する人として、2人の名前が挙がります。一人は王仁(わに)博士(日本に最初に漢字を伝えたと言われる渡来人の学者)、もう一人は姜沆先生です。この繋(つな)がりを見ると、私が日本に来たのも運命であり、日韓関係の仕事をしてもおかしくないと考えました。それで民間交流の仕事をしようと決心し、1993年に準備を始めました。

具体的には、これまでにどんなことを行ってきましたか。

 24年前に「韓日文化交流センター」を立ち上げたのを皮切りに、ハングル教室、日本語教室、そしてお互いが友達をつくろうということで、「日韓ちんぐ会」を設立しました。

 また、日韓の文化人、芸術家、経済人、社会団体の交流促進、観光客の誘致にも力を入れてきました。姉妹都市提携を行った自治体は多数ありますし、青少年の交流、留学生のためのホームステイ支援など、民間団体、企業、自治体、政府関係の仕事まで、さまざまな事業を展開してきました。

 世界に韓国と日本の関係のような困難な関係はあるでしょうか。今は、そんな日韓の交流に長年取り組んできたノウハウを、アジアと世界に生かそうと思っています。

 韓日文化交流センターが22周年を迎えたのを機に「ASIA文化経済振興院」と名前を変え、韓国・日本・中国を中心にアジアに事業を拡大しています。主な活動としては、韓国語・日本語・中国語で発行する「アジア観光経済新聞」を通して、会員に情報提供を行っています。

これからの日韓関係を考える上で、重要なことは。

 日韓の間には、歴史の問題があります。歴史は忘れてはいけません。でも、日韓関係は未来志向で考えることが大切です。

 今の日本と韓国の青少年たちがお互い交流しながら、日韓それぞれの文化についての理解を深めていけば、これから30年後、40年後には、日韓は兄弟のような国になるでしょう。

 韓国人は日本が好きで、一番行く外国と言えば日本です。ただ、政治的なレベルになると、関係改善は難しいから、まず民間交流でお互い訪問し合うことが一番大事だと思います。

来年2月、韓国・平昌でオリンピック冬季大会が開催されます。何を期待しますか。

 平昌オリンピックは韓国のためだけではなくて、日本のためにも中国のためにもアジアのためにも成功しなければなりません。だから、文在寅大統領には是非、平昌オリンピックを成功させてほしいですし、政権運営にも期待しています。

 日本の皆さんが今度の冬季オリンピックを応援して、かつ日本の力を見せれば、日本に対する世界の評価は高まります。オリンピックのような国際的なイベントを日韓が協力して行えば、両国の関係改善に寄与するはずです。それが私の提案です。