民間レベルで深まる絆 台湾と北海道の交流

台北駐日経済文化代表處札幌分處處長 陳 桎宏氏に聞く

 台湾から北海道を訪れる観光客が年々増えている。とりわけ、2009年から2014年までの5年間で北海道を訪れた観光客は約20万人から42万人と2倍の増加となっている。併せて道内の自治体と台湾との交流も活発になってきた。今後の台湾と北海道の交流の在り方について台北駐日経済文化代表處札幌分處の陳桎宏處長に聞いた。(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

台湾からの来道、最多に/青少年交流が不可欠に

明治以来の深い繋がり/企業間の交流にも期待

400 ――北海道を訪れる外国人観光客の中で台湾からの訪問客は群を抜いて多く、ここ5年ほどを見ても倍増しています。増加の要因はどの辺りにあると思われますか。

 台湾での北海道人気は非常に高いものがあります。北海道の魅力は何と言っても自然が豊かで風光明媚(めいび)な観光地が多いこと。また、食べ物が新鮮で美味しい。しかもスケールの大きい温泉が道内各地にあることも魅力の一つになっています。北海道で雪を見ながら温泉に浸かると幸せな気分になりますね。

 統計上の数字で見ると、台湾の人口は約2300万人。そのうち、年間約1200万人が海外旅行に出掛けています。台湾から日本を訪れた観光客の数は昨年で283万人でした。ちなみに昨年の訪日外国人は約1340万人ですが、国別で見ると台湾が最も多く5人に1人は台湾からの観光客ということになります。283万人のうち42万人が北海道を訪れているわけですから、北海道の魅力の大きさが分かります。もう一つ、北海道の魅力を挙げると、それは日本全体に言えることなのですが、清潔な街並み、治安の良さや自然保護など環境への取り組み、また道民の優しさやおもてなしの文化といった日本の精神があると思います。

 さらに、ここ5年で伸びた背景には、北海道と台湾の交流窓口機関として台北駐日経済文化代表處札幌分處の開設とその働きもあるでしょう。札幌分處の開設は2009年12月ですが、台湾からの観光客もその年を境に急激に伸びています。

 ――台北駐日経済文化代表處札幌分處の開設が契機になったとはどういうことなのでしょうか。また、その役割とは具体的にはどのようなことなのでしょうか。

 前述したように2009年当時、台湾から北海道への観光客はすでに20万人を超えていました。そこで危惧されたのは観光客の旅行中での事件や事故、病気です。言葉が通じない場所でトラブルにスムーズに対応できなければ楽しいはずの旅行が台無しになってしまうでしょう。例えば、2月には札幌で雪まつりのイベントがありますね。台湾からも多くの観光客が来ますが、滑って転んで骨を折るなどの怪我をすることもあります。また、台湾の旅行会社が企画したツアーでも時にはバスが不足するケースもあります。その時は、こちらから事前に情報を流し、手配できるようにしています。ですから札幌に開設した目的の一つとして観光客のケア、保護があります。札幌に分處を開設することで、道庁や地方の自治体と緊密に連絡を取ることができますし、そうした観光情報を本国に伝えることで、安心して旅行ができ、旅行会社はより洗練された魅力ある観光ツアーを提案していくことができると考えています。

 それから、札幌分處のもう一つの役割は、民間レベルでの幅広い交流を促進することがあります。私がこちらに着任した2013年8月、道内には既に八つの日台親善協会がありました。現在、その数は16に増えています。また、地方議会では北海道議会日台親善議員会、札幌市議会日台友好議員連盟、釧路市議会日台友好促進議員連盟が組織されています。日台親善協会を通じることで北海道のお酒や農水産物など各地の特産品を台湾に紹介することができますし、それは地域の活性化にも繋がります。また、道内企業の台湾投資や台湾企業との連携事業など経済交流が進められるといった期待が広がります。

 ――台湾には親日家の方が多いと聞きます。台湾と北海道の民間交流が深まれば、経済的な交流もさらに広がっていきますね。

 台湾はご存じのとおり、教育の普及率もレベルも高いものがあります。IT関連の技術も高く、中小企業にもパワーがあります。そうした台湾と北海道の企業がコラボレートしていけば、大いに発展していくでしょう。

 また、現在、日本を含め多くの国が中国大陸への経済進出を進めています。中国投資に関する調査結果がありますが、それによれば日本企業が単独で行う場合の成功率は65%にとどまっているのに対し、台湾の企業と手を携えて投資を行った場合の成功率は78%に引き上がるというのです。

 よく日本人のモノづくりには「匠(たくみ)」の技が投入されているといいます。日本人は精巧で耐久性がある商品の開発に優れています。一方、台湾人はビジネスが得意。商売の時機、タイミングをとらえて売りさばくのがとても上手です。日本人と台湾人が連携すればビジネスも間違いなく成功するでしょう。

 交流を深めるためには、まずお互いの国柄や歴史、国民性を知らなければなりませんね。

 日本と台湾との間には強い信頼関係があります。政治面では、長年の懸案だった領土問題も、馬総統が提唱していた「東シナ海平和イニシアチブ」、そして安倍首相をはじめとする日本の方々の支持の中で、2013年4月に台日漁業協議(日本:日台漁業協定)が締結されたことによって平和裡(り)に解決となりました。この件は、広く世界のメディアによって伝えられ、領土紛争の平和的解決モデルとして、国際社会から非常に高く評価されております。

 また、文化面では、昨年6月から12月まで東京と福岡の国立博物館で「特別展 台北国立故宮博物館―神品至宝―」が開催されました。すでにヨーロッパや米国では台北故宮の海外展は開催されていたのですが、アジアでの海外展はそれが初めてでした。

 どちらの事例を見ても、国同士の信頼関係がなければ無理ですね。そして信頼関係を醸成するにはやはり対話を重ねることです。対話を重ねていけばどんなに難しいと思われる問題も解決していくと確信しています。それによって信頼関係が大きくなり、双方の発展に繋がっていくでしょう。

 また、特に歴史ということで申し上げますと、現在、観光地として広く知られている北海道も、台湾とはとても強い歴史的繋がりがございます。私は、札幌に着任する前に、北海道の地理や歴史を調べたのですが、北海道と台湾の関係は明治の頃から深い繋がりのあることが分かりました。

 1895年から1945年まで台湾は日本の統治下にありました。その期間、日本はダム建設や、農地開発、教育の普及、衛生管理など台湾のインフラ整備に力を注いでいます。その時、新渡戸稲造など北海道に所縁のある人が沢山やってきて台湾の開拓に精を出してくれたというのです。歴史を知ることで互いの絆の深さが分かりますね。

 ――北海道と台湾の交流拡大は双方にとって飛躍のカギとなるような気がします。台湾と北海道の交流を進めるために、今後どのような活動を展開される予定ですか。

 今後、北海道と台湾がともに発展していく上で大事なことは、青少年の交流を拡大することだと考えています。もちろん、経済的な交流や観光客の誘致も大事ですが、両国の未来を築くには青少年同士の交流は不可欠です。それは野球をはじめとする各種スポーツ、あるいは音楽でも何でもいいのですが、まず交流に一歩踏み出すことです。

 陳處長が札幌に着任したのは、2013年8月のこと。以来、精力的に北海道を駆け巡り台湾をアピールしている。とりわけ、着任した年の12月、富良野市役所を訪問する日が吹雪で完全なホワイトアウト(視界ゼロ)の状態。「死ぬかもしれない」と思ったが、それでも訪問した。一方、富良野で待ち受けた市長は、「来ないと思った」というが、吹雪の中を来てくれたということで、互いに感動し合ったという。先進国の観光からは学ぶものが多いと陳處長は語るが、北海道をこよなく愛する一人である。台湾出身、61歳。