未来に残したい郷土の浜辺 いしかり海浜ファンクラブ事務局長 石井滋朗氏に聞く
環境ボランティア
札幌に隣接する石狩市。日本海に面した石狩湾には北海道の母なる川・石狩川が流れ込む。また、延々と続く自然のままの砂浜と海浜植物が生い茂る砂丘、さらに約20㌔㍍にも及ぶ天然のカシワ林は圧巻。一方、夏場になれば近郊の市町村から多くの人が海水浴に訪れるが、心ない人によって海岸が荒らされているのも事実。そうした中で石狩浜を守ろうと石狩市内の複数のボランティア団体の有志が集まり「いしかり海浜ファンクラブ」を結成した。郷土の海を守る意味と活動の内容について、「いしかり海浜ファンクラブ」の石井滋朗事務局長に聞いた。(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)
植生の連続性が残る海岸 植物茂る砂丘は天然の防波堤
複数の団体の有志が結集 年2回のガイドツアーは好評
――「いしかり海浜ファンクラブ」は比較的新しい団体だと聞いていますが、どのような経緯で結成されたのでしょう。
当団体は平成23年(2011年)11月に設立されました。活動を開始して実質3年になります。まだ若い団体なのですが、会員のメンバーは石狩市の石狩浜海浜植物保護センターに関連する他の団体に所属する人が多いのです。
私自身、石狩浜を定期的に観察する「ふるさと自然塾」に所属していますが、そこに所属しながら「いしかり海浜ファンクラブ」にも入っています。
――そのような別の団体に所属している人たちが何故新しく団体を設立したのかという疑問が湧くのですが。
確かにそう思われるのは当然なのですが、その前に石狩浜についてお話ししたいと思います。
石狩海岸は小樽市銭函(ぜにばこ)から石狩市厚田区望来(もうらい)まで25㌔㍍に及びますが、その利点は砂浜海岸の本来の姿を残しているということです。自然のままの砂浜海岸は、海から柔らかい砂浜があり、それから陸地(山側)に向かって植物が生い茂る砂丘(第一砂丘)があります。
さらに陸側には様々な植物が連続的に広がり、多様な植生をつくっていきます。ところが最近は、道内でも護岸・堤防建設や植林などが施され、本来の砂浜海岸にある植生の連続性が失われつつあるのが実情です。
それに対して石狩海岸はそれほど人工の手が加えられず、植生の連続性が残る全国的にも希少な自然海岸となっており、しかも植物に覆われた砂丘は海岸の厳しい環境を和らげ、天然の防波堤としての役割を果たすという特有の状態を残しているのです。
とりわけ、銭函から望来までのおよそ20㌔㍍にわたるカシワの天然海岸林は日本最大規模で環境省が選定する「特定植物群落」に指定されています。
こうした貴重な自然が、190万都市札幌の隣町で中心部からわずかクルマで40分足らずのところに残されているというのはまさに「奇跡的なこと」だとさえ言えると思います。
ところが、近年、札幌市など近郊の市町村から心ない人たちがバギー車などで乗り込んで海岸を荒らしていく姿が多く目につくようになりました。
一方、石狩市内の環境ボランティアを行っている人は、石狩の自然に対して当然誇りを持っていますし、これからも自然景観を守っていくという意識はみな持っていますが、単団体の限定的な活動では、なかなか大局的な観点から本格的に石狩浜の自然を守ることは難しい。
そこで各ボランティア団体の有志が集まり、より実効性のある郷土の環境保護のために「いしかり海浜ファンクラブ」という新しいボランティアの会をつくったというわけです。
――具体的にはどのような活動をしていらっしゃるのでしょうか。
一つは実際に参加者を募って海岸を散策するフットパスツアーを行っています。二十数㌔㍍に及ぶ海岸線を数カ所のコースに分けて、いしかり海浜ファンクラブのメンバーがスタッフガイドとなり、石狩海岸に生息する植物や砂丘の様子、カシワ林などについて説明していきます。一つのコースは2~3時間ほどのもので春と夏の2回行っています。
札幌などからも参加があり好評を博しています。このコースについては、案内マップ(石狩海岸フットパス)も作成しています。
また、海岸利用者マナーの小冊子を作り、7月と8月に海岸を利用する人たちに配って浜辺の保護に対する意識を高めてもらう活動をしています。
他には、環境省が実施している植物定点調査の「モニタリングサイト1000」に参加して年に7回ほど調査を行っています。これは、植生に詳しいガイドの育成という意味合いもあります。
また、市民向けには海岸の近くにあるカフェで海浜にまつわるお話の会を催す「いしかり海浜カルチャートーク」や夜の海辺を楽しむ「石狩浜ナイトウォーク」、さらに石狩浜の保全と魅力を発信する「石狩海浜フォーラム」を開催するなど様々な活動を行っています。
――石狩海岸は小樽市と石狩市の二つの自治体に跨(また)がっていますが、石狩海岸を守るための双方の連携した取り組みというものはあるのでしょうか。
残念ながら小樽市と石狩市の両市が連携した石狩海岸を守るための取り組みは今のところありません。石狩市は植物の採取や車の乗り入れ禁止区を設けるなどの規制はかけていますが、双方で規制を取り決めることはしていないようです。
今後、そうした方向に向かうように希望しています。ただ、私どもでは小樽博物館の協力を頂いて、動植物の生態、特に昆虫などについて勉強会を開催していますので、そうしたところから今後、両市に連携が生まれればと思っています。
――石井事務局長は長い間、石狩海岸を観察されてきましたが、海岸自体は昔と比べてかなり変わってきているのでしょうか。
外来種が増えてきているという印象はあります。例えば、ニセアカシアなどかなり目立っています。また、海水によって砂浜が浸食されているという印象もあります。ただ、一番目立って危惧されるのは、やはり人工的な破壊が一番大きいこと。バギー車などで大きく抉(えぐ)られた砂丘があちこちで見受けられます。一度、抉られた砂丘はなかなか元に戻らない。
バギー車による乗り入れが無くなっても植物が回復するには10年近い年月を要しますし、仮に回復しても一度抉られた場所だというのは見れば分かります。
――バギー車などの侵入対策として規制をかけても、なかなか効果が上がらないと聞きますが。
私どもでは、石狩市と連携して今年から海岸巡回を始めました。1200㍍の海岸を50㍍に区切って調査し、バギー車などの侵入状況を調査するというものです。9月5日にも2時間ほど行い、侵入跡を調査し、車両進入防止ロープを切って侵入したところでは、ロープを張り直す作業を行いました。
今後はこうした活動の範囲を広げて、きめ細かい対応をすることが必要だと思います。そうすることで、石狩浜の植生が破壊されることを防止することにつながると期待しながら取り組んでいます。