日米豪印で中国に対抗を 4カ国識者インタビュー(上)


連携枠組みの制度化急げ

 軍事・経済両面で強大化する中国が国際秩序を脅かす中、「クアッド」と呼ばれる日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国の役割が2021年も一段と重要になることは間違いない。世界日報はこうした情勢を踏まえ、インド太平洋地域の安全保障や中国の世界戦略に詳しい日米豪印の識者にインタビューした。識者からは、中国が台湾や沖縄県・尖閣諸島を武力侵攻するシナリオが現実味を帯びてきたとの警告が表明されるとともに、中国の覇権主義的行動を抑えるには、クアッドの連携強化が死活的に重要になるとの共通認識が鮮明になった。

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 ジェームズ・ファネル元米太平洋艦隊情報部長は、中国が建国100周年の2049年に「中国の偉大な復興」を実現するため、30年までに台湾と尖閣諸島の奪取に動くと予測。ファネル氏は20~30年の10年間を「懸念の10年」と呼び、「この期間、われわれは中国の行動を非常に警戒すべきであり、中国の戦略を妨げる対応策を考える必要がある」と訴えた。

 香田洋二・元自衛艦隊司令官は、米国でバイデン政権が誕生した場合、「中国は米国の出方を試すはずだ」と予想。台湾が実効支配する東沙諸島に侵攻する可能性があり、「ここで米国が動かなかった場合、台湾軍事侵攻が一気に現実味を増すことになる」と強い懸念を表明した。

 香田氏は日米豪印の連携強化について、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)や共同軍事演習などを定例化し、「枠組みの制度化をしっかり進めることが重要だ」と主張した。

 インド政策研究センターのブラーマ・チェラニー教授は、ヒマラヤ山脈の国境地帯で発生した中印の軍事衝突が「インドを一段と敵対的な立場に追い込むことになった」と指摘。非同盟を掲げてきたインドも、近年は「民主主義国との緊密な協力を追求」しており、「クアッドの未来は、インドの役割に懸かっている」との見方を示した。

 中国の影響工作の実態を暴いた著書『目に見えぬ侵略』で注目を集める豪チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授は、中国資本が自衛隊基地周辺の土地や水源地などの買収を行っていることについて、「買収を容認するのは愚かだ。日本はこの問題への理解が遅れているようだが、これは危険なことだ」と警告した。

共通理念軸に連携強化を
「海洋の自由」脅かす中国

元自衛艦隊司令官・香田 洋二氏

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の重要性をどう見る。

香田洋二氏

 こうだ・ようじ 1949年徳島県生まれ。防衛大学校卒。元海将。佐世保地方総監、自衛艦隊司令官を歴任。2008年に退官し、ハーバード大学アジアセンター上席研究員、国家安全保障局顧問などを務めた。

 FOIPの理念の原点は、海洋をいかに自由で平等に使用し、われわれの生活を豊かにしていくかにある。米国や日本など西側諸国は、中国海軍の増強や一帯一路政策によって、今まで築き上げてきた「海洋の自由利用」が脅かされるという強い懸念を抱いている。

 食料と資源の一大輸入国となった中国は、米国との競争が避けられない時に、自分たちの生存のために海上交通を自由に使う必要がある。主な輸入先であるアフリカ、南米、オーストラリアをつなぐのはすべてインド太平洋だ。南シナ海での埋め立てを強行したり、欧州に軍艦を出すなど、独自の方法で進出を始めた。

 つまり、米国を中心に「海洋の自由利用」によって繁栄を維持してきた西側諸国と、軍事力を背景に覇権を目指す中国とのしのぎ合いの土俵が必然的にインド太平洋になったといえる。

「クアッド」と呼ばれる日米豪印4カ国は、どのように連携を強化していくべきか。

 一言で日米豪印と言っても、それぞれ文化や言語が違い、国益や国情も違う。インドは人口が多いが、経済はまだまだ発展途上で、パキスタンとの対立や国情不安のアフガニスタン、中国との国境問題を抱えている。オーストラリアは大陸資源国ではあるものの人口は少ない。現在の資源の最大の輸出先は中国だ。

 米国はオバマ政権末期ごろから中国に見切りを付け、トランプ政権で経済戦争に入ったが、まだ完全には縁を切れていない。日本はその狭間で、地理的にも中国に近く、文化的にも深い関係にあるが、価値観が異なり、明治維新以降、アジアで唯一西洋文明を取り入れ、今は西側の重要な一員だ。

 今、中国が大暴れしそうだからといって、この4カ国をまとめるのは簡単にはいかない。しかし接着剤はある。中国に対し、経済の依存はあるものの、やはり自由や民主主義、人権については譲れない原則がある。「海洋の自由利用」に基づくFOIPの共通理念も重要になる。

 私は2007年に日本が初参加した米豪印シンガポールとの海上合同演習「マラバール」に指揮官として現地に行ったが、当時のインドは中国に非常に配慮していた。オーストラリアも中国との経済関係に配慮し、政権交代後、マラバールへの参加をやめたほどだ。

 当時は誰もが近い将来、中国とうまくやっていけると思っていた。

 しかし中国が国際法や条約を無視し続ける姿勢を見て、「同じ部屋に住める国ではない」と確信し、それぞれ国情が違う4カ国に共通部分が生まれた。皮肉なことに、中国は自らの強引さ故に、本来結び付いてほしくない国を結束させてしまったのだ。

 4カ国は今後、外相会談や2プラス2(外務・防衛担当閣僚協議)、共同軍事演習などを進めていこうという流れだが、その枠組みの制度化をしっかり進めることが重要だ。もちろん同盟を結ぶのが一番良いが、安全保障上どこまで中国に近寄っていいのか、ラインを各国で共有しておかないと4カ国の枠組みはすぐに崩れてしまう。

 例えば、オーストラリアは現在、中国に大麦やワイン、石炭の輸入を拒否されているが、耐え続けるにも限界がある。理念のためにどこまで犠牲にするのか、お互いに線引きを決めておかなければ、「抜け駆け」となってしまう。

具体的にどのような制度化が必要か。

 この先、各国が中国と接していく上で、すべての国が同じ距離感で関わっていくことは難しい。それぞれが近寄ったり離れたりするだろう。しかし外相会談や首脳会談を毎年必ず行い、その中で互いに考えや状況を説明し、中国との関係が危険水域に入っていないか、あるいは4カ国の連携を弱めるような単独行動や対中忖度(そんたく)をしていないかの共通認識を確認することが重要だ。

 特に2プラス2を行うとなれば、下部のスタッフレベルでかなり細かく論議するはずだ。それを上層部に上げながら、国の意思を確認し、お互いに意思統一をしていくことが重要だ。

 米国のトランプ大統領も、中国企業の入札防止などの布石を打っているが、あくまで米国の単独行動であり、4カ国で連携していくことが大切だ。

 自国の利益のためだけではなく、それぞれの国家目標を達成することに加え、共通認識の中での対中政策として進めていかなければならない。

(聞き手=社会部・川瀬裕也)

30年までに尖閣占拠の恐れ
現実味帯びる中国武力侵攻

元米太平洋艦隊情報部長 ジェームズ・ファネル氏

沖縄県・尖閣諸島周辺で活発化する中国の行動をどう見る。

ファネル氏

 James Fanell 米ハワイ大学で修士号を取得。元米太平洋艦隊司令部情報部長。2015年に海軍を大佐で退役するまで、インド太平洋地域の安全保障に関する情報分析に30年近く携わる。現在、ジュネーブ安全保障政策センターの研究員。

 2020年に中国が台湾や尖閣諸島周辺、南シナ海で挑発的、攻撃的行動を繰り返したことを非常に憂慮している。

 徐々に迫り、奪い取るというのが中国の戦略だ。つまり、ネクタイを少しずつ引き締め上げれば、ある時点で呼吸ができなくなるという考えだ。

あなたは2014年に中国軍が「東シナ海で電撃作戦を行う訓練をしている」と警告した。中国が尖閣諸島を攻撃するとしたら、どのようなシナリオがあるか。

 まず悪天候の日などに中国が真夜中にヘリコプターで特殊作戦部隊を尖閣諸島に上陸させるシナリオだ。「忍者攻撃」とも呼ぶべき作戦で、油断している隙を突くものだ。日本はこれに備える必要がある。

 また中国が尖閣諸島周辺を漁船団と海上民兵で取り囲むケースが考えられる。事故などが起きるようにわざと接近し、海上自衛隊と海上保安庁が領海を守ろうとしたら、中国は海軍と空軍を投入し、日本の艦船を攻撃して沈め、尖閣諸島を占拠する。これは非常に現実味のあるシナリオだ。

 さらに中国が尖閣だけでなく、他の南西諸島も占領したいと考えるなら、日本への本格的な攻撃を行うことも想定する必要がある。

 中国は戦略ロケット軍の弾道ミサイルを用いて横須賀基地など米軍や自衛隊の基地を攻撃する訓練を行っており、目的のために必要だと判断すれば、それを実行するだろう。

なぜ中国は尖閣諸島の占拠を強く望むのか。

 中国共産党は、自らが正当な領土であると見なす土地を取り戻さなければならないという戦略的信念を持っているからだ。

 中国の指導者が建国100周年に当たる2049年10月1日に紫禁城の前に立ち、「中国の偉大な復興を達成した」と宣言するためには、それ以前に領土問題をすべて解決しなければならない。

 では、軍事力を行使できるのはいつまでか。その答えは、中国が国民を殺戮(さつりく)するために軍事力を用いることを世界に示した1989年6月の天安門事件からの時間軸にある。

 われわれはこの事件を見て、これはひどい、野蛮だと厳しく非難した。しかし、その19年後の2008年8月8日の北京五輪の開会式で盛大な式典が行われ、当時のブッシュ米大統領をはじめ各国の指導者が出席した。

 それは中国共産党にどのようなメッセージを送ったのか。わずか19年の間に、天安門広場での野蛮な行動を非難した世界各国は、五輪開会式に参加するためにチケットを手に入れるようになったということだ。

 2049年から19年さかのぼれば2030年だ。一方、習近平国家主席は2020年までに中国軍に対し台湾を侵攻するための軍事力を持つよう命じたが、その軍事力は尖閣諸島に対しても使えるものだ。

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 私はこの2020年から30年までの10年間を「懸念の10年」と呼んでいる。この期間、われわれは中国の行動を非常に警戒すべきであり、こうした中国の戦略を妨げる対応策を考える必要がある。

尖閣諸島を守るため日本に何ができるか。

 すぐにできることは、日本が尖閣諸島に民間人を置くことだ。例えば、動植物や海洋汚染などについて研究する科学者、もしくは気象観測所を置く。これにより、中国にとって尖閣諸島を奪取することははるかに難しくなる。日本と全面的な戦争を行うリスクについて再検討する必要が生じるからだ。

 尖閣諸島周辺で米軍など同盟国の海軍と共同訓練をすれば、「戦わずして奪取することはできない」とのメッセージを中国に送ることができる。これらは資金をほとんど用いずに、直ちにできる対応だ。

 また日本や台湾、グアムを狙う中国のミサイルに対抗するため、米国と日本は第1列島線(日本列島、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ線)とその周辺にミサイルを配備することだ。日本はすでに取り組み始めているが、問題はそのスケジュールだ。

 2030年以降では遅過ぎる。3年以内にやる必要がある。中国本土に到達できる米国と日本のミサイルシステムによって、中国は攻撃すれば反撃を受けるリスクについて考慮せざるを得なくなる。これは今まで中国が想定していなかったことだ。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

国乗っ取る中国影響工作
日本のエリート層も標的に

豪チャールズ・スタート大学教授 クライブ・ハミルトン氏

オーストラリアに対する中国の影響工作の実態を暴いた『目に見えぬ侵略』を執筆したきっかけは。

ハミルトン氏

 Clive Hamilton 1994年に進歩系シンクタンク「オーストラリア研究所」を設立し、所長を14年間務めた後、2008年からキャンベラのチャールズ・スタート大学教授。中国の影響工作の実態を暴いた著書『サイレント・インベージョン』(邦題『目に見えぬ侵略』と『ヒドゥン・ハンド』(邦題『見えない手』で注目を集める。

 2016年、中国系ビジネスマンが豪州の政党に納めた多額の献金について、多くのメディアで報じられた。これらのビジネスマンのうち数人が中国共産党と関係があると指摘された。

 そこで私は調査を始め、数人の専門家に話を聞いたところ、中国共産党が豪州に非常に大きな影響を与えているにもかかわらず、ほとんど公になっていなかったことに気付いた。

同書の概要について説明を。

 中国共産党とその関連組織や個人が、豪州の政界、経済界、学術界のトップにいる人物を標的にした方法を調査し、明らかにした。中国共産党はまずこうしたエリートを標的にして、取り込み、その上で実質的に国を支配する、もしくは中国の利益に対して友好的な態度を取らせるようにしている。

中国はどのような手口でこうしたエリートを取り込んだのか。

 ビジネスマンに対しては非常に露骨で、中国との取引でお金を稼ぎたいなら、中国に批判的なことは言わない方が良いと伝える。そうしてビジネスエリートたちは、常に中国の利益を支持することになる。

 しかし、より微妙な心理的テクニックも用いる。例えば、有力政治家たちを全額無料で北京に招待する。彼らはレッドカーペットで迎えられ、非常に重要な人物として扱われる。

 そして彼らは徐々に中国について特別な洞察が得られたと信じるようになる。自分たちは中国を理解する特別なエリートであり、それを他の人たちに説明することを義務と考えるようになるのだ。

 だが、中国について説明することは、実際には中国共産党の立場を説明するということだ。こうしたエリートたちは中国の擁護者になり、自国や世界で中国の宣伝をすることになる。

日本の政治家、経済人、メディア関係者もこうした影響工作の標的になっているのか。

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 ほぼ間違いない。日本の有力政治家や経済人たちが中国共産党の影響を受けていることは、非常に大きな問題だ。メディアや大学関係者も中国共産党の見解を受け入れ、それを日本中に広めている。

 これは日本を危険な状況に置く。なぜなら、独立した意思決定能力を徐々に失うことになるからだ。

 中国の狙いは豪州の場合と同様に、日本を米国との同盟から切り離すことだ。日本の有力政治家やオピニオンリーダーに、米国ではなく中国と連携することが長期的に日本の利益になると説得しようとしている。

 こうした工作によって、言論の自由を含む日本の民主主義体制と人権への取り組みが徐々に損なわれることになる。これは、日本人が享受する自由への大きな脅威となる。

中国から豪州の重要インフラへの投資にはどういう事例があるか。

 中国の企業やビジネスマンらによる重要インフラと戦略的資産への大規模投資により、豪州の主要な港湾や各地の電力会社などが買収された。豪州政府は2~3年前から国家安全保障と独立性への危険性を認識し始め、規制に動いている。

 豪州では中国からの投資を日本や米国、ドイツからの投資と同じように扱うべきだという議論もあるが、それは中国の政治経済への根本的な無理解からきている。

 なぜなら、中国企業は海外でも中国共産党の指示を実行することが法律で求められているからだ。彼らが中国の情報機関のためにスパイ活動や工作活動に従事するように求められた場合、これを拒否すれば厳しく罰せられる。

日本で中国資本が自衛隊基地や空港周辺の土地や水源地などの買収を行っている。この危険性についてどう思うか。

 中国企業が自衛隊基地周辺など戦略的資産を購入すれば、日本にとって非常に大きなリスクとなる。米国は数年前、中国企業が空軍基地の衛星追跡局に隣接する土地などを購入していることに気付いた。これは安全保障上のリスクであり、偶然ではないと理解した。

 中国共産党は政治的、戦略的利益を促進するためにそれらを利用しようとしており、買収を容認するのは愚かだ。日本はこの問題への理解が遅れているようだが、これは危険なことだ。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

「クアッド」のカギ握る印
尖閣で対中配慮は逆効果

インド政策研究センター教授 ブラーマ・チェラニー氏

中国の拡張に対抗する上で、「クアッド」と呼ばれる日米豪印4カ国による連携強化の重要性をどう見る。

チェラニー氏

 Brahma Chellaney インドの戦略地政学者。ニューデリーのシンクタンク「政策研究センター」教授。ドイツの研究機関「ロバート・ボッシュ・アカデミー」の研究員も務める。インド外務省の政策諮問会議委員などを歴任。

 クアッドは、インド太平洋地域の主要民主主義4カ国による緩やかな戦略的連合であり、中国の強硬な政策に対応するために具体化し始めている。日米豪印はこの地域の脆弱(ぜいじゃく)な多国間安全保障の枠組みを強化するために、クアッドを正式なものにする方向で動いている。

 クアッドは将来を見越し、安定したパワーバランスと「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を構築することが中心的な狙いだ。安倍晋三前首相が掲げたFOIP構想は、米国の地域戦略の基軸になった。この戦略の成否は、真に自由で開かれたインド太平洋の実現を信じるクアッド4カ国に懸かっている。

 中国は、国際的な対中連合が形成される日は「決して来ない」と言っていた。だが、習近平体制の攻撃的な政策は裏目に出始めている。

クアッドに対するインドの立場は。

 インドは非教条的な外交ビジョンを構築してきた。インドは非同盟運動のリーダーだったが、今はほとんど非同盟のことは言わなくなった。現在のインドは、多国間の連携、特に民主主義国との緊密な協力を追求するようになっている。

 クアッドの未来は、インドの役割に懸かっている。他の3カ国は既に、2国間、3カ国間の軍事同盟で結ばれているからだ。

 インドはあからさまに反中の立場を取ることには慎重だ。インドはクアッドの中で唯一、中国と陸で国境を接する国であり、中国の軍事侵攻には独力で対抗しなければならない。これに対し、日豪は米国の安全保障の傘に入っている。

ヒマラヤ山脈の国境地帯で中印の緊張状態が続いている。

 2020年4月、中国軍がインド最北ラダック地方の国境地帯数百平方㌔㍍をひそかに占領した。これ以降、6月に起きた最も大きな衝突を含め、両国の部隊は数回衝突している。中印はヒマラヤの国境地帯全域で、緊迫した軍事的膠着状態に陥っている。

 習氏がヒマラヤで起こした誤ちは、インドを一段と敵対的な立場に追い込むことになった。インドは大規模な軍備増強が不可避となり、その中には海軍の増強も含まれる。

中国はヒマラヤ、台湾海峡、東シナ海で同時に挑発的行動を強めている。

 中国は香港を弾圧し、新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の強制収容所を拡大する一方、アジアでは軍事侵略を拡大させている。習氏の強硬な政策と思い上がりは、国際的な抵抗を招いている。日米豪印や欧州連合(EU)などとの関係も悪化しており、中国の対外政策への圧力が拡大していることが浮き彫りになっている。

 中国は戦略的利益が代償を上回ると認識し続ける限り、攻撃的拡張主義に固執するだろう。インドと日本に対する消耗戦略も継続するだろう。中国に具体的な代償を負わせなければ、日印は中国に対し、「戦争以外に平和を守る方法はない」という状況に追い込まれる恐れがある。

習氏は台湾統一に向けて武力行使も辞さない意向を示している。

 香港の後、習体制が次のターゲットにする可能性が高いのが台湾だ。事実上の独立国家という台湾の立場は、インド太平洋の平和と安定に死活的に重要だ。拡大する中国の挑発行為に対し、台湾の安全保障強化を支援することは、全ての民主主義国の利益である。

沖縄県・尖閣諸島周辺で中国公船の領海侵入が後を絶たないが、日本政府の対応をどう見る。

 18年の安倍氏の訪中以降、日本政府は対中関係の改善を重視し、過去数年間、一連の領海侵入に対して異常なほど抑制的な対応を取ってきた。対抗措置を避けることは、中国の好戦的態度を強めるだけだ。

 中国を刺激しないように、日本のどの防衛相も尖閣諸島の航空測量を行ってこなかったことは、驚くべき事実だ。だが、そのような抑制は、中国のさらなる領海侵入を招くだけだ。

 中国は尖閣諸島が支配下にあるかのように、同諸島から周辺海域を警備することまで目指している。中国による尖閣諸島周辺での領海・領空侵犯の拡大は、2国間で外交的進展があっても習体制の修正主義は変わらないという警告と受け止めるべきだ。

(聞き手=編集委員・早川俊行)