ゴーン容疑者、記載義務の有無が最大の争点
日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者が巨額の役員報酬を隠したとされる事件で、東京地検特捜部は2010~14年度の報酬約48億円を有価証券報告書に記載しなかったとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)罪で同容疑者と側近の前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者を起訴した。役員報酬をめぐる虚偽記載の起訴は初めてのことだ。
海外メディアの批判も
特捜部はまた、17年度までの直近3年間でも報酬約42億円を隠したとして、同法違反の疑いで両容疑者を再逮捕した。
有価証券報告書は、上場企業などが金融商品取引法に基づいて事業年度ごとに作成するものだ。投資家保護のため、事業の概況や財務、大株主の状況など幅広く記載する。
上場企業には10年3月期から年1億円以上の報酬の役員名と金額の開示を義務付けた。虚偽を記載すると、同法違反で10年以下の懲役か1000万円以下の罰金、またはその両方が科される。
両容疑者は10~17年度の8年間とも、役員報酬の一部を後払いで受け取ることにして隠蔽(いんぺい)したとみられている。特捜部は日産幹部らと日本版「司法取引」に合意し、退任後報酬の金額が記載された文書などを入手。全額を有価証券報告書に記載する義務があったとみているが、両容疑者は「金額は決まっておらず、記載義務はなかった」と虚偽記載を否定している。裁判では最大の争点となるだろう。
両容疑者の勾留期間はそれぞれ40日間を超す可能性があり、フランスなどの海外メディアからは日本の勾留期間の長さに批判的な論調も上がっている。
フランスでは、捜査の初期段階で裁判所の令状なしに容疑者を拘束できる。「ガルダビュ」(警察留置)と呼ばれ、テロ関連以外の容疑では最長4日間だが、原則1日。テロ関連でも最長6日だ。現在、ゴーン容疑者らは東京地裁の勾留決定で拘束されている状態だが、フランスのメディアはガルダビュとして報じている。これが批判を生む要因になった。
もっともフランスでも、重大事件についてはガルダビュ後、検察官が予審開始と容疑者の勾留を請求するのが一般的だ。予審では最長4年8カ月間の勾留が可能となる。こうして見ると、日本の勾留期間が長いとは必ずしも言えない。海外メディアの批判には誤解に基づく面もあるようだ。
また、日本では容疑者の取り調べに弁護士は同席できないが、特捜部は録音・録画(可視化)しながら取り調べを行っており、人権への一定の配慮もなされている。それぞれの国の制度に基づいて捜査を進めるのは当然のことだ。
日産は統治機構改革急げ
特捜部はゴーン容疑者らのほか、両罰滴定を適用して法人としての日産も起訴した。
この事件をめぐっては、ガバナンス(企業統治)の機能不全を招いた日産経営陣も厳しく批判されている。独立社外取締役らによる「指名・報酬委員会」を設け、人事や報酬を決めるようにするなど統治機構改革が急がれる。