免震データ不正、信頼揺るがした責任は重い
産業部品メーカー、KYBの建物用免震・制振装置の一部で検査データの改竄(かいざん)が判明した。
社会全体で首都直下地震や南海トラフ地震などへの対策が進む中、免震製品への信頼を揺るがした責任は重い。
全国の建物に改竄製品
改竄が見つかったのは、地震などの際に油圧を利用して振動を抑えるオイルダンパーと呼ばれる装置の一部。検査で国の評価基準または顧客企業の基準値から外れたデータを改竄し、検査記録として提出していた。本来であれば製品を分解して内部の部品を調整しなければならないが、担当者が時間を省くためにデータを書き換えたという。
KYBは改竄が見つかった製品について、震度6強から7程度の地震に十分耐えられることを確認したと説明している。だが、それで不正が許されるわけではない。
改竄の期間は2003年1月から今年9月とされている。検査は従業員1人で行っており、00年以降の8人が納期に間に合わせるために改竄に関与したことを認めている。検査担当者らは口頭で不正を引き継いでいたという。
この間には、05年の元1級建築士による耐震データ偽造事件や15年の東洋ゴム工業の免震偽装、旭化成子会社のくい打ちデータ改竄などが次々と明らかになっている。それでもKYBや子会社では15年以上にわたって不正を続けていたのだから、製品の品質よりも利益を優先していたと批判されても仕方がないだろう。
改竄された製品が導入されたのは、病院や自治体庁舎、商業施設、マンションなど全都道府県の986件に上る。病院や自治体庁舎は地震の際に防災拠点となる建物であり、住民の間に不信感が広がっては困る。
まずは、性能基準を満たした製品との交換を急ぐ必要がある。ただ免震用オイルダンパーの交換は比較的容易であるのに対し、制振用は壁の中などに設置されるため、工事に手間がかかるという。
改竄された製品は東京五輪・パラリンピックの水泳会場で使用が確認されたほか、東京スカイツリーや大阪・通天閣などの観光名所でも使われた疑いがある。製品の設置場所によっては、交換工事が居住者の生活や施設の営業などに影響する恐れもあり、被害が膨らみかねない。
こうした品質不正は免震装置に限らない。昨秋以降、神戸製鋼所や三菱マテリアル、東レ、日産自動車、SUBARUなど日本を代表する製造業で続出している。
その背景には、国や企業の品質基準が高いという意識があるため、少々基準を下回っても安全だという現場の甘い認識がある。品質管理を現場任せにしてきたことも原因の一つだ。
法令順守意識の向上を
国土交通省は同業他社に対しても同様の問題の有無について確認を求めた。免震装置のように安全に関わる製品を造る企業には、特に厳しい品質管理が欠かせない。KYBは信頼回復に向け、製品に必要とされる性能の基準厳守などコンプライアンス(法令順守)意識を向上させるべきだ。