iPS脳移植、新たな治療法の確立を期待


 京都大が人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いたパーキンソン病での臨床試験(治験)を開始する。体のさまざまな細胞に変えることができるiPS細胞を患者の脳に移植する世界初の試みだ。

パーキンソン病で治験

 パーキンソン病は、脳内で情報を伝える物質「ドーパミン」を出す神経細胞が減り、体を動かしにくくなったり震えが起きたりする難病だ。治療法としては、ドーパミンの分泌を促す薬の服用が主だが、症状が進んで神経細胞がさらに少なくなると効果は薄れる。欧米では中絶した胎児の脳の神経細胞を移植する治療法もあるが、日本では倫理上の問題から行われてこなかった。

 治験では、拒絶反応を起こしにくい特殊な免疫の型を持つ人の血液から作ったiPS細胞を使用。これを神経細胞に変えて脳の中心に近い2カ所に計約500万個を移植する。成功すれば製剤化を目指し、2022年度にも国に申請するという。パーキンソン病の患者は国内に約16万人いる。難病の新たな治療法の確立が期待される。

 とはいえ、脳は人体の中枢である。治験では、いかに安全を確保するかが課題となる。

 ⅰPS細胞から神経細胞になり損ねた細胞が混じると、がん化する恐れもある。治験を実施する京大の高橋淳教授らのチームは、人のⅰPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病のサルに移植し、がん化する可能性のある腫瘍ができないことを確認しているが、人でも同じ結果が得られるとは限らない。

 腫瘍が良性でも周囲の脳の組織に影響を与えれば、まひや意識障害などの問題が生じ得る。放射線治療や腫瘍の摘出手術を行うようになれば、患者の負担は大きい。移植細胞が過剰にドーパミンを分泌し、体が勝手に動く副作用が起きる可能性も指摘されている。

 ⅰPS細胞から作った細胞を患者に移植する計画は、14年に理化学研究所が実施した目の難病患者での臨床研究と、大阪大が心臓病で予定している臨床研究に続き、3例目となる。もっとも、先の二つの計画がいずれも研究が主体であるのに対し、今回の治験は実用化に向けた最終段階の位置付けだ。公的医療保険が適用される治療法を目指すという。

 治験では、患者を募集するなどして7人を選び、年内にも1人目への移植を行う。安全性に十分に配慮して進めなければならない。

 政府は13年から10年間で計1100億円をiPS細胞研究に投資する計画を進めている。こうした中、国内ではiPS細胞を使った再生医療の実用化に向けた動きが加速している。慶応大では心臓病の一種である「拡張型心筋症」や脊髄損傷の治療が計画されている。ⅰPS細胞から輸血用の血小板製剤を製造することを目指すベンチャー企業もある。

成果を焦らず慎重に

 再生医療の研究が進み、新たな治療法が開発されることは朗報だと言える。

 だが、成果を焦ることは禁物だ。安全性を慎重に見極めることが求められる。