米朝会談12日に、トランプ氏は足元見られるな


 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談が、当初の予定通り12日にシンガポールで開催されることになった。

 会談中止の表明からわずか8日後だ。しかも、北朝鮮の非核化の道筋が明確にならない中での決定である。トランプ氏の前のめりの姿勢が懸念される。

非核化に関する主張後退

 トランプ氏は北朝鮮の金英哲党副委員長との会談後、首脳会談開催を発表した。北朝鮮の非核化に関して米朝の認識の隔たりが埋まらない中、首脳会談を「プロセスの始まり」と位置付け、交渉に一定の時間をかける可能性を示した。

 首脳会談を実りあるものにするには、まず実務者協議による交渉の積み重ねが必要だ。しかし、トランプ氏はトップダウンで北朝鮮との首脳会談に応じることを決めた。

 憂慮されるのは、トランプ氏が北朝鮮非核化について従来の主張を後退させていることだ。トランプ氏は当初、首脳会談で非核化と体制保証を包括的に合意して「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を迅速に進めることを目標に掲げていた。

 だが、英哲氏には「制裁は解除しないが、(非核化に)時間をかけて構わない」と伝えたという。追加制裁については「準備ができている」としながらも「交渉が決裂するまでは発動しない」との方針を示した。

 これでは米朝首脳会談が開催されたとしても、首脳間で北朝鮮の具体的な核廃棄の方法や期限などが決まる可能性は低い。トランプ氏は首脳会談の目的を「お互いに知り合うこと」としているが、正恩氏と信頼関係を構築して非核化へ導けるかどうかは不透明だ。

 北朝鮮は、非核化の条件としてCVID同様に要求水準の高い「完全かつ検証可能で不可逆的な体制保証(CVIG)」を求めているとされる。非核化の過程においても、米韓合同軍事演習の中止やテロ支援国の指定解除に加え、米国人を平壌に留めるための連絡事務所の設置などを段階的に要求してくる可能性がある。

 首脳会談の最大の成果は、その後の実務者協議の設置になるとの見方も出ている。トランプ氏としては11月の中間選挙に向け、非核化を前進させたと有権者に訴える思惑もあろう。

 選挙で勝つために実績を上げたいという民主主義国家のリーダーの気持ちを、北朝鮮指導部はよく理解している。トランプ氏は北朝鮮に足元を見られないようにしなければならない。

 国際社会は非核化が実現するまで北朝鮮への最大限の圧力を継続すべきだ。その意味でトランプ氏の「『最大限の圧力』という用語をこれ以上使いたくない」という発言は気に掛かる。

日本の立場明確に伝えよ

 トランプ氏は非核化の対価として考えている北朝鮮への経済支援について「韓国に準備するように言った。日本も同様だ」と語った。だが日本としては、非核化だけでなく、全拉致被害者の帰国が実現しない限り、支援について考えることはできない。日本の立場をトランプ氏に明確に伝える必要がある。