防衛大綱見直し、専守防衛で国民を守れるか
政府は「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を年内に見直す。
安倍晋三首相は「従来の延長線上ではなく、国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めていきたい」と述べ、大胆な見直しを目指す意向を示している。
自民が提言骨子まとめる
防衛大綱は長期的な日本の防衛力の整備や運用の在り方を示す安全保障政策の基本方針。これに基づき、5カ年計画で具体的な装備調達や部隊編成、必要経費などを定める中期防衛力整備計画(中期防)を策定する。
安倍首相は昨年8月の内閣改造の際、小野寺五典防衛相に見直しの検討を指示した。北朝鮮の核・ミサイル開発など、わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。防衛力を適切に整備して増大する脅威に対処するのは当然のことだ。
こうした中、自民党は防衛大綱と中期防の見直しに向けた提言の骨子をまとめた。戦闘機の離着陸が可能となる「多用途防衛型空母」の導入と、短距離離陸・垂直着陸できる米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bの取得を盛り込んだことが柱だ。
政府は海上自衛隊最大級の護衛艦「いずも」を戦闘機の発着が可能な空母に改修することを検討している。政府見解では、専守防衛の観点から攻撃型空母や大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離戦略爆撃機の保有は憲法上、許されないため、政府は「防御型空母」と位置付けることで従来見解との整合性を取る方向だ。提言骨子をまとめた自民党安全保障調査会の中谷元・会長も「(導入を求めているのは)攻撃型ではない空母だ」と強調している。
防衛大綱見直しについて、安倍首相は「専守防衛は当然の前提」と述べている。専守防衛とは、相手から攻撃された時に初めて日本が防衛力を行使し、整備する防衛力は自衛のため必要最小限にするというものだ。
だが東京や大阪などの大都市がミサイルで攻撃された場合、たとえ1発でも甚大な被害が生じよう。ミサイル攻撃を未然に防ぐため、発射前に相手の基地への攻撃を可能にする敵基地攻撃能力の保有について、政府は「防御するのに他に手段がない場合、法理的には自衛の範囲内に含まれ、可能」(1956年の鳩山一郎首相答弁)とする憲法解釈を踏襲している。もっとも、政策判断として実際に攻撃可能な兵器は導入してこなかった。
専守防衛という用語は憲法に明記されているわけではない。しかし、この考え方が日本の安保政策を過度に抑制的にしてきたことは否めない。これで国民の生命と財産を守れるとはとても思えない。安倍首相は「従来の延長線上」ではない政策を進めるべきだ。
「統合司令部」の創設を
自民の提言骨子には、自衛隊の統合運用の強化策として、大きな災害や有事の際に陸海空の自衛隊の部隊を一括して運用する常設の「統合司令部」と、それを指揮する「統合司令官」の設置も盛り込まれている。
常設の司令部ができれば、部隊間の調整などが円滑化し、事態への対処能力の向上が期待できる。政府は、こうした提言を実行に移してほしい。