核削減目標達成、米は軍縮よりも抑止力向上を
米国とロシアの戦略核弾頭の配 備上限を1550発と定めた新戦略兵器削減条約(新START)について、達成期限を迎えた米露両政府は、それぞれ削減目標を達成したと発表した。
しかしロシアや中国は核兵器の近代化と増強を加速し、北朝鮮も核・ミサイル開発を進めている。米国は日本など同盟国の安全保障のためにも、核軍縮よりも核抑止力向上に重きを置くべきだ。
ロシアとの条約を履行
新STARTは2009年12月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継となる米露の核軍縮条約で、当時のオバマ米大統領とメドベージェフ・ロシア大統領が10年4月にチェコの首都プラハで調印し、両国議会の批准を経て11年2月5日に発効した。この条約は10年間有効で、発効から7年以内にそれぞれが配備済みの戦略核弾頭を1550発に削減すること、爆撃機などの運搬手段は総数の上限を800と設定することなどを義務付けている。
米国務省のナウアート報道官は声明で「米国は昨年8月に条約の制限を満たした」と説明。ロシア外務省も「ロシアは完全に削減義務を履行した」ことを表明した。
米国は昨年9月1日の時点で配備済み戦略核弾頭数を1393発(09年時点では2252発)、ロシアは今年2月5日の時点で1444発(同2787発)まで削減。運搬手段総数は米国が660(同851)、ロシアが527(同620)だった。米露両国は来月、データを交換し条約の順守を検証することになっている。
ナウアート氏は「新STARTを完全に履行し続ける」と強調した。だが米露関係の悪化を受け、条約に盛り込まれた5年間の延長や後継条約の交渉のめどは立っていない。
「核なき世界」を目指したオバマ氏は条約対象外の戦術核の削減も目指したが、14年のロシアによるウクライナ南部クリミア併合などをめぐり、プーチン政権との関係が悪化し交渉を断念した。
プーチン大統領はクリミア併合の際、核戦力を使用できる臨戦態勢に入る用意もあったと後に証言している。「核なき世界」の実現の可能性は低いと言わざるを得ない。
ロシアは新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」などの配備を推進。21年までに核戦力の近代化率を90%まで引き上げる目標を掲げている。
一方、トランプ米政権は中期的な核政策の指針を定めた「核態勢の見直し」(NPR)を発表し、爆発力の小さい低出力核弾頭(小型核)2種類や核巡航ミサイルの新開発を盛り込んだ。米国には、オバマ前政権が掲げた核軍縮と国防予算縮小の方針で、ロシアの核開発に後れを取っているとの焦りがある。
NPRの方針転換は当然
NPRでは核戦力の優位性を取り戻す方針を明確に示した。トランプ政権が核軍縮の方針を転換したのは当然だと言える。米国の核抑止力向上は、同盟国の日本の安全保障にとっても極めて重要だ。