受動喫煙法案、これで防止効果はあるのか
受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を検討している厚生労働省は、飲食店について、中小企業や個人が運営する既存の小規模店には時限的に喫煙を認める修正案をまとめた。「喫煙」「分煙」の表示義務を課し、従業員を含め20歳未満の立ち入りを禁じることで「望まない受動喫煙」を防ぐものだ。2020年東京五輪・パラリンピックまでに段階的な施行を目指す。
当初案より大きく後退
だが、昨年3月公表の当初案より大きく後退したことは否めない。当初案では、喫煙可能とする店を30平方㍍以下のスナックやバーに限っていた。しかし外食業界の意向を受けた自民党が一律150平方㍍以下に拡大する対案を主張したため、修正案では一定面積以下の既存店は立法措置で別途定めるまで喫煙や分煙を認めるとした。
150平方㍍以下とした場合、都内の飲食店の9割が喫煙可能となる。これで受動喫煙防止に効果があるのか疑問だ。
飲食業界は禁煙による売り上げ減少を懸念している。しかし海外のデータは、売り上げに影響はなく、むしろ増えることを示している。厚労省は飲食業界の理解と協力を得られるよう一層の情報発信に努めるべきだ。
政府が受動喫煙防止の法整備を進めるのは、東京五輪に向け、国際オリンピック委員会(IOC)が掲げる「たばこのない五輪」への環境整備を急ぐためだ。10年以降に五輪を開催したロンドンやリオデジャネイロでは、飲食店などの屋内全面禁煙が実現している。
厚労省の「たばこ白書」によれば、受動喫煙で肺がんの死亡リスクは約3割上昇する。心臓病や脳卒中なども含めた受動喫煙による死者は年1万5000人を超えるという。交通事故による年間死者数が約3700人であることを考えれば、受動喫煙対策がいかに重要か分かる。
たばこ規制枠組み条約のガイドラインは、公共施設を屋内全面禁煙とするよう求めており、換気や喫煙室の設置は「不完全」としている。海外では15年までに49カ国が屋内全面禁煙を法律で定めている。
日本の取り組みは甘いと言わざるを得ない。今回の修正案が成立したとしても、世界保健機関(WHO)の受動喫煙対策の格付けは、現在最低ランクの4番目から1段階上がるだけだ。規制強化を要望していた医療界などからは強い批判の声が上がっている。政府や自民党は重く受け止めるべきだ。
九州看護福祉大の教授らが昨年行った調査では、受動喫煙を不快と感じる人が全体の8割に上った。昨年8月には日本医師会など4団体が、受動喫煙防止策をめぐって「屋内全面禁煙」を求める署名が約270万人に達したと発表した。
国民の多くが対策強化を望んでいると言えよう。政府は五輪開催国にふさわしい規制を実施すべきだ。
喫煙率の着実な低下を
日本たばこ産業(JT)の調査によると、17年の成人喫煙率は男女計で18・2%。過去30年で半減した。政府は22年度までに成人喫煙率を12%とする目標を掲げている。喫煙率を着実に低下させることも重要だ。