逗子ストーカー、被害者の立場に立った対応を


 神奈川県逗子市で2012年に元交際相手に殺害された女性の住所を加害者側に漏らしたとして、夫が市に損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁横須賀支部は市に110万円の支払いを命じた。

市職員が住所を漏洩

女性は元交際相手の男からストーカー被害を受け、住民票の閲覧・交付制限を申し出て認められた。だが、市納税課の担当者が夫を装って電話をかけてきた元調査会社経営者の男(偽計業務妨害罪などで有罪)に、本人確認手続きを取らずに住所を伝えた。

 元交際相手は女性に「殺す」と書いたメールを送ったとして11年6月、脅迫容疑で逮捕され、執行猶予付き有罪判決を受けた。その後12年3~4月には女性に1000通以上のメールを送り付けたが、脅迫文書ではなく、当時のストーカー規制法ではメールは対象ではなかったため、立件が見送られたことも問題視された。

元交際相手は12年11月、探偵業者を通じて女性の住所を把握した翌日、女性宅を訪れて女性を殺害。直後に現場で自殺した。市職員の軽率な対応が凶悪な事件を招いたことは否めない。判決が違法な公権力の行使だったと認定したことを深刻に受け止める必要がある。逗子市の平井竜一市長は控訴しない意向を示した。実効性ある再発防止策を講じなければならない。他の自治体も教訓とすべきだ。

 ストーカーや、配偶者などからの暴力(DV)の被害者に関する住民票の閲覧や交付の制限は、住民基本台帳制度に基づく支援措置として04年に全国で始まった。対象者は16年12月現在で約10万8600人。事件の起きた12年の同時期と比べ約2倍に急増した。

 一方、制限の有無を確認せずに被害者の住所を加害者に漏らしてしまうミスも少なくない。長崎県では夫からDV被害を受けて別居している女性の転居先が記された書類を、同県職員が誤って夫に郵送していたことが明らかになった。これでは何のために制限措置を取っているのか分からない。自治体には被害者の立場に立った対応が欠かせない。

 元交際相手は11年に逮捕された際、警察によって読み上げられた逮捕状で女性の新姓などを知った。これが女性の殺害につながったことも確かだ。あってはならないミスであり、警察にも再発防止の徹底を改めて求めたい。

 この事件を受け、ストーカー規制法が13年6月に改正され、嫌がる相手に繰り返し電子メールを送信する行為を新たに規制の対象とした。さらに16年5月に東京都小金井市で音楽活動をしていた女性が男に刺され重傷を負った事件が起きたことから、16年12月にはインターネット交流サイト(SNS)上での嫌がらせも対象に加えられた。

苦しむ女性減らす努力を

 だが、DVやストーカーなどの被害は年々増加している。16年はDV相談件数が過去最多の6万9908件、ストーカー被害も過去2番目に多い2万2737件に上った。苦しむ女性を減らすための取り組みを今後も続けなければならない。