貴乃花理事解任、事件解明は十分ではない


 元横綱日馬富士による幕内貴ノ岩への傷害事件に始まる一連の問題に絡んで、日本相撲協会の臨時評議員会は旧臘28日の臨時理事会で決議された貴乃花親方(元横綱)の理事解任案を承認した。協会理事が解任されるのは初めてで、親方は役員待遇委員に2階級降格し、指導普及部副部長となった。

臆測呼んだ頑なな姿勢

 先の九州場所は、場所中に発覚した事件の騒ぎが広がる中での開催だったが、熱烈なファンに支えられた土俵は大いに盛り上がった。続く初場所が、この14日に控えている。

 ファンとしてはこれで一件落着とし、協会全体がノーサイド精神で一丸となって力士が土俵に全力をぶつけられるように取り組んでもらいたい。相撲人気に水を差すことがないよう求めたいが、関係者に渦巻く不信は根深い。事件が十分に解明されたとは言い難く、区切りを付けるまでに、なお時間が必要なのは残念である。

 貴乃花親方が、昨年10月下旬の秋巡業中に起きた事件について、まず警察に被害届を出し、その公正な解明による社会正義の実現を求めた行動に間違いはない。だが、同時に巡業部長の要職にありながら、協会に報告すべき義務を怠ったのは咎められても仕方ない。

 さらに、協会の危機管理委員会が要請した貴ノ岩本人への事情聴取を、再三にわたって拒んだことも批判されて当然である。騒動が長引いたことで事件の解明が遅れた上、さまざまな臆測を呼んで事態が一層深刻化した責任の一端は明らかに親方が負うべきであろう。何より一切を沈黙で押し通した、その頑なな姿勢は同情を寄せる人たちの理解をも遠ざけてしまったのだから。解任処分については多少の疑問は残るものの、妥当なところとみるほかない。

 一方、協会にも大きな反省を求めたい。まず、過去の暴力事件を反省して再出発しながら、依然として暴力を容認する体質が残っていて、意識改革が徹底されていなかったことである。

 組織運営におけるガバナンスと危機意識の欠如も今回の騒動で露呈した。評議員会議長の池坊保子氏は、11月1日に鳥取県警から協会に通報があったのに、九州場所前の11日の理事会で取り上げられなかったことについて「隠蔽という意味ではなく、本場所を終えたら速やかに公表し、鳥取県警と連絡を取り合いながら聴取をしたいと考えていた。その判断は大変に難しい」と協会をかばっている。

 このあたりは本来、協会の危機管理の甘さとして批判すべきであった。不可解な行為として真相解明を図る必要があったのではないか。貴乃花親方の不信を招いた問題の中には、協会側が責任を負わなければならないものがあった。

オープンな意見の主張を

 貴乃花親方の現役時代の相撲は、まさに正道を行くものであったからこそファンを沸かせてきた。協会の責任の一端を担う立場に立っても、堂々と批判、提案し、意見をオープンに主張してもらいたい。熱い議論を交わして理解を深め、溝を埋めていく中で、大相撲の改革とこれからが見えてくるはずである。